不可解なレフェリングに問われるJの姿勢 ゼロックス杯はブーイングに包まれ終演

宇都宮徹壱

理想的な顔合わせになった一戦

G大阪が浦和を2−0で破り、今季初タイトルを手にした 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 新シーズンの到来を告げる富士ゼロックス・スーパーカップ2015(以下、ゼロックス杯)。今年は、昨シーズンに3冠を達成したガンバ大阪と、最終節まで息詰まる優勝争いを繰り広げた浦和レッズという顔合わせで、2月28日に日産スタジアムで開催された。そのキャッチコピーは「最強の、開幕宣言。」というもの。G大阪と浦和の対戦を、今も「ナショナルダービー」と呼ぶべきかどうかについては、もちろん異論がないわけではない。それでも、両者が今季の優勝候補であることは衆目の一致するところ。1週間後に開幕する新たなシーズンへの期待感をあおるという意味では、理想的な顔合わせであると言ってよいだろう。

 ずい分と早くにスタジアムに到着したので、メディア受付でもらったオフィシャルマッチデープログラムを熟読する。例年との大きな違いは、「今季のJ」をアピールしようとする意図が明確であることだ。今季からJ1リーグに導入される2ステージ+チャンピオンシップ制について見開き2ページでフィーチャーされ、過去のシーズンの成績に基づいたシミュレーションまで行っている。さらに、Jリーグ・アンダー22選抜を含むJ1からJ3の53チームが、監督の顔写真とコメント入りで紹介されていた。いずれのページからも「もっとJリーグを知ってもらいたい」という主催者側の想いがひしひしと感じられる。

 リーグチャンピオンと天皇杯優勝チーム(編注:2つが一緒の場合はリーグ2位のチームが出場)によるスーパーカップとしてスタートしたゼロックス杯。しかし最近では、U−18Jリーグ選抜と高校サッカー選抜による「ネクスト・ジェネレーション・マッチ」、さらにはマスコット総選挙の結果発表や全国のご当地スタジアムグルメを楽しめるコーナーなど、さまざまな客層が楽しめる要素を盛り込んだ大会として、広く認識されるようになった。シーズン最初のJリーグの公式戦であるゼロックス杯は、Jリーグの魅力というものを(とりわけライト層に向けて)発信していく絶好の機会。とりわけ今季のJ1は、メディアの露出を増やしてライト層を取り込むべく、大会方式を大きく変更したのだから、その重要性は例年以上と言えるだろう。観客の入りもまずまず(4万7666人)。風はやや冷たいけれど、天候も良好だ。あとは「最強の、開幕宣言。」というキャッチコピーが、ピッチ上で実現することを願うのみである。

満を持してパトリックを投入したG大阪

浦和のポゼッションサッカーを打ち破ったのはパトリック(左から2人目)の個の輝きだった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 G大阪は、けがで離脱した今野泰幸が、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)に続いて欠場。代わりに37歳のベテラン明神智和が遠藤保仁と中盤の底でコンビを組んだ。また、昨シーズンに宇佐美貴史と強力なツートップを組んでいたパトリックはベンチスタートとなり、今季新加入の赤嶺真吾(前ベガルタ仙台)がスタメンで起用された。対する浦和は、ACLから5人のメンバーを入れ替え、新加入選手は高木俊幸(前清水エスパルス)のみ。Jリーグの開幕は1週間後だが、G大阪は中2日(城南FC戦/アウェー)、浦和は中3日(ブリスベン・ロアー戦/ホーム)で、それぞれACLがある。タイトルはもちろん欲しいが、戦力的にもコンディション的にもベストの状態で臨めない、それぞれのチーム事情が透けて見える。

 前半は基本的に浦和が相手陣内でボールを回し、G大阪はブロックを形成してしっかり受け止めるという展開。しかし攻め続けているはずの浦和は、なかなかシュートまで持ち込めない。7分に槙野智章が枠外のミドルシュートを打って以降、32分に那須大亮がヘッドでゴールを狙うまでの25分間、まったくシュートなしという状態が続いた。G大阪が手堅く守っていたこともあるだろうが、それ以上に浦和にチャレンジングな姿勢があまり見られないことが気になった。結局、スコアレスのまま前半は終了する。

 後半になると、攻める浦和、守るG大阪という構図が少しずつ崩れてきて、両者ともチャンスを演出するようになる。そして後半11分には浦和がズラタン(高木OUT)を、G大阪が同18分にパトリック(赤嶺OUT)をそれぞれ投入。高さのあるズラタンはG大阪のDF陣に脅威を与えるかと思われたが、この試合で存在感を示したのはパトリックのほうだった。後半23分、パトリックの粘りから右コーナーキックのチャンスを得ると、遠藤のキックにパトリックがヘディングでコースを変え、最後は宇佐美が右足ダイレクトでネットを揺らす。先制したのは、前半をシュート1本で終えたG大阪であった。

 終盤は、前線に人数を割いた浦和が猛攻を仕掛けるも、これをしのいだG大阪はアディショナルタイムに追加点。中盤での味方のパスカットを受けたパトリックが、ドリブルで独走して放ったシュートは、いったんはGK西川周作に阻まれたものの、すぐさま自分で押し込んでダメ押しの2点目を挙げる。結局、パトリックの個の輝きが浦和のポゼッションサッカーを打ち破り、2−0で勝利したG大阪は今季最初のタイトルを手にすることとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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