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メイウェザーvsパッキャオ決定の裏側
商品価値の低下がつなげた世紀の対決

米国最大イベント2日前の一報

長年うわさされていたメイウェザーとパッキャオによる世紀の一戦がことし5月2日にとうとう実現する
長年うわさされていたメイウェザーとパッキャオによる世紀の一戦がことし5月2日にとうとう実現する【写真:AFLO】

「スーパーボウル中にフロイド・メイウェザーがマニー・パッキャオ戦の予定を発表することになりそうだ」

 今年は2月1日にアリゾナで行われたNFLの、いやアメリカ最大のスポーツイベントであるスーパーボウルの2日前のこと――。懇意にしている某ケーブルテレビ局の関係者からそんな一報が届き、瞬間、戦慄した。


 この時点で、ボクシングファンにとっての“夢の対決”であるメイウェザー対パッキャオ戦が実現に近づいているというのは一般的な認識ではあった。しかし、そこまで成立寸前だとは……。


 ここでしばらく迷ったが、結局、仕事関係者にこそ経緯を伝えたものの、記事を書くどころか核心を突いたツイートすらしなかった。


 この一戦は2009年頃から何度も話題に上り、そのたびに消滅して来た。細部を詰める必要はあるのかもしれないが、今回はもう基本合意には達しているのだろう。それでも過去の経緯を振り返れば、「最後まで何が起こるか分からない」と慎重にならずにはいられなかったのだ。

歴史的一戦は現地時間5月2日

メイウェザーは47戦47勝と無敗のまま5階級を達成した希代のディフェンスマスター
メイウェザーは47戦47勝と無敗のまま5階級を達成した希代のディフェンスマスター【写真:AFLO】

 結局、思わせぶりなメイウェザーが「パッキャオと対戦する」と正式発表したのは、それから約3週間が過ぎた現地2月20日のこと。“戦わざるライバル同士”がついに拳を交えることになったこと、そして筆者が世界的なスクープを狙って先走らなかったことを、今となっては素直に喜びたい。


 実現するのは、大げさでなく歴史に残る一戦である。現地時間2015年5月2日、場所はラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナ。


 ボクシング一家に育った希代のディフェンスマスター、無敗の5階級制覇メイウェザーと、“アメリカンドリーム”を達成したフィリピンの野生児、事実上の8階級制覇王者パッキャオという余りにも対照的な2人が激突する。WBA、WBC、WBOという3団体のウェルター級王座を懸けた統一戦だが、この試合にはタイトルは関係あるまい。口当たりのいいキャッチコピーも必要ない。


 全階級を通じて最高級と思われる2大ボクサーであり、12年に発表された『フォーブス』誌のスポーツ選手長者番付で1位(メイウェザー)、2位を独占したほどの人気者同士。その2人の対決を目撃することで、現代に生きる私たちは歴史の生き証人になるのである。

“2人が全盛期を過ぎたこと”で成立

史上2人目となる6階級制覇を達成し、“アメリカンドリーム”を達成したフィリピンの野生児パッキャオ
史上2人目となる6階級制覇を達成し、“アメリカンドリーム”を達成したフィリピンの野生児パッキャオ【写真:AFLO】

 通称“The Fight”の発表後はアメリカ国内でもフィーバーに近い騒ぎとなっているが、一方で「両雄が揃ってピークに近かった4〜5年前に実現していれば」という声も聴こえて来る。もっとも、ここに来てついに成立した最大の理由は、端的に言って“2人が全盛期を過ぎたこと”だったようである。


 現代を代表する存在であり続けて来た2人も、メイウェザーは37歳、パッキャオは36歳と加齢。パフォーマンスの質がやや低下すると同時に興行価値も低下し、最近はPPV売り上げも苦戦するようになった。特に11年にメイウェザーと6戦の大型契約を結んだ『Showtime』は、毎戦で3000万ドル以上のファイトマネーを保証したがゆえに、過去4戦中、サウル・アルバレス(メキシコ)戦以外の3戦で巨額の赤字を出したと言われている。


 そんな状況下で、これ以上の出血を避けたい『Showtime』はインパクトのあるカードを組む必要があった。結果として、米3大ネットワークの1つである『CBS』(Showtimeの親会社)の経営最高責任者であるレスリー・ムーンブス氏がメイウェザー、パッキャオ両陣営の仲裁に乗り出す事態にまで発展する。

多くの溝を埋めてくれた仲裁人

『Showtime』と契約したメイウェザーだが、13年9月のアルバレス戦以外の3戦は巨額赤字と言われている
『Showtime』と契約したメイウェザーだが、13年9月のアルバレス戦以外の3戦は巨額赤字と言われている【写真:AFLO】

「過去の交渉との違いはレスリーが絡んでいること。彼の心の中には交渉決裂なんて結果は頭になかったようだ」

『Showtime』スポーツ部社長であるステファン・エスピノーザは後にそう語っているが、実際に『Showtime』、『HBO』という契約テレビ局の違い(注/試合は両局のジョイントPPVで放送)、メイウェザーとパッキャオのプロモーターであるボブ・アラムの確執など、多くの溝を埋めてくれたのがムーンブス氏だった。


 交渉は一時停滞したものの、1月27日のマイアミで、NBAのマイアミ・ヒート対ミルウォーキー・バックス戦を揃って観戦に訪れていたメイウェザーとパッキャオは運命的な邂逅を果たす。両雄が顔を合わせることで話し合いは円滑になり、メガファイトは実現に向けて勢いを付けていった。


 ただ……話を戻せば、メイウェザーの試合ごとに『Showtime』が赤字を出していなければ、CBSの経営最高責任者がわざわざ厄介な交渉に専心することもなかったはず。だとすれば、この試合をまとめるにはやはりこの時期以外になかった。主役のボクサーの商品価値低下が“世紀の対決”につながるのは皮肉だが、興行の世界とはそういうものなのだろう。

全盛期よりも高まった注目度

WBO世界ウェルター級王座に返り咲くなど2012年の2連敗から現在3連勝中のパッキャオ
WBO世界ウェルター級王座に返り咲くなど2012年の2連敗から現在3連勝中のパッキャオ【写真:AFLO】

 これも皮肉なことだが、実現までに約5年も待たされたことが、世間一般への“最高のプロモーション”となった感もある。米国内でのこの試合への注目度は、2人が全盛期にいた4〜5年前より現在の方が遥かに高い。


 結果としてPPV売り上げは過去最高(これまでの最高は07年のメイウェザー対オスカー・デラホーヤ戦)を記録することが有力。1000〜5000ドルと予想される入場券も、とてつもないプラチナチケットになる。そんな狂想曲の結果として、ファイトマネーはメイウェザーが約1億2000万ドル、パッキャオが8000万ドル程度という天文学的金額になることが予想されている。


 数年前に戦っていれば、報酬はその半分程度だった。そういった意味でも、2人が引退も遠くない時期まで直接対決を引っ張ったことは、ビジネス的にはプラスに働いたと言っていい。モハメド・アリ対ジョー・フレイジャー、シュガー・レイ・レナード対トーマス・ハーンズ、マイク・タイソン対イベンダー・ホリフィールド、オスカー・デラホーヤ対フェリックス・トリニダード――過去の歴史的ファイトとの比較も始まった現代の大決戦は、興行成績では間違いなく史上最高の数字を叩きだすはずである。


 このようにさまざまな意味で規格外の“The Fight”は、どんな異常なエピソードを生み出し、そしてどんな試合になるのか。時代の覇者はいったいどちらなのか。


“夢”は“現実”になり、真実のドラマがこれから始まる。運命の糸に導かれた2人が、すべての答えを明らかにすべくラスベガスのリングに立つまで、あと約2カ月半―――。

杉浦大介
杉浦大介
東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)