南野デビューも「物足りなさを感じる」 チームが求めるのは勇気と切り替えの速さ

中野吉之伴

目立った活躍はできなかったデビュー戦

ウィーナー・ノイシュタット戦に先発した南野が、欧州デビューを果たした 【写真は共同】

 オーストリアの首都ウィーンから電車で30分ほど離れたウィーナー・ノイシュタットの中央駅には、試合開始1時間半前にもかかわらず、観戦に訪れたと思しきファンの姿がまったく見当たらない。本当に今日が試合日だろうかといぶかしがりながらスタジアムに向かうと、さすがにちらほらと集まってきていた。それでもこの日の入場者数は2100人ほど。こじんまりとしたスタジアムにドイツであれば5部か6部リーグくらいの客の入り。そこがセレッソ大阪からレッドブル・ザルツブルクへ移籍してきた南野拓実のデビュー戦会場となった。

 イメージトレーニングでもしていたのだろうか。試合前のピッチに南野が一人で足を運んでいた。この日、スタメン出場を飾った南野は4−4−2システムの右ハーフとして64分までプレー。リーグ最下位のSCウィーナー・ノイシュタットが相手だっただけに、「堂々としたプレーで華々しいデビューを!」というのが理想だったかもしれないが、守備を固める相手に手を焼いたこともあり、これといった目立った活躍ができないままピッチを後にすることになった。

 試合後は落ち着いた様子で「初戦で個人的には結果を残したかったです。チームとして勝つことが大事だったので、それができて良かったと思います。シュートが打てていないので、そこは改善していきたいと思います」と振り返っていた。

 実際に特に前半はなかなか良い形でボールを受けられずに苦労している様子だった。パスを受けても出しどころがなく、結局バックパスという場面が目立った。時折鋭いターンで相手のマークを外したり、前を向いてドリブル勝負を仕掛けるシーンもあったが、チームとの連動性がまだあまり感じられず、単発に終わってしまう。

まだまだ途上のチーム順応

 慣れの問題はある。「公式戦1試合目なので。まあしょうがないです。もっとやっていけば良くなると思います」と南野自身も認めているように、いきなり連携が潤滑に機能するわけではない。ゴール前でフリーになりながらパスが出てこないシーンもあった。味方からのパスを呼び込むためにはチームの流れに乗って、効果的にプレーに絡むことが重要になる。そしてプレーの流れを把握するためには、チームのサッカーにしっかりと順応することが必要になる。

 クラブのインタビューで「ザルツブルクのサッカーは日本に比べて速い」と語っていたが、ザルツブルクは攻守の切り替えを速くし、奪ってからの素早い縦パスを起点に細かいパス交換と裏のスペースに抜け出す動きで相手を翻弄(ほんろう)していくサッカーを目指している。

 スポーツディレクターのラルフ・ラングニックはドイツサッカーを変革した先駆者の一人で、ハイプレス・ハイスピードサッカーに革新的に取り組んだ人物。2009年ホッフェンハイムの監督時代に躍動感あふれるサッカーで、昇格クラブながら前半戦を首位で折り返すというセンセーションを成し遂げた。

 そのラングニックは「ボールを奪われることをミスだとは捉えないことが重要だ。パスミスをせずにゴールまで迫ることができると考えてはだめだ。パスミスもゴールに向かうための大事なプロセスの一つ。奪い返すことも含めてのチャレンジ。パスを出せるかもしれないスペースがある時に、0.5秒迷うだけでそのスペースは消えてしまう」と自身の哲学を語っていた。激しい動きの中でも瞬時に最適で勇敢な判断を下すことが求められている。

 南野も「監督が一番に言うのは攻守の切り替えの速さ。そこですね。良い守備が良い攻撃につながるところを練習からやってきた。今日もいくつか、そういう場面をチーム全体として出せたと思う」とポイントとして挙げていた。この日もザルツブルクはコンパクトな陣形から積極的なボールへのアプローチを目指し、南野もタックルで何度かボール奪取に関与していた。しかし全体的に慌てた仕掛けが多く、ボールを取りきれなかったり、取ったとしてもみすみす自分たちでボールを失う場面も多かった。それはチームとしての問題が少なからずあったからだ。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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