ルーキーたちが迎えたプロ初 Jリーグ新人研修で感じた現実と可能性

川端暁彦

厳しい現実を突きつけられたルーキーたち

昨年から特別指定選手として名古屋で出場する大武は大卒の即戦力。開幕スタメンも視野に入る 【写真:アフロスポーツ】

 2月1日から3日にかけて、恒例のJリーグ新人研修が開催された。ここに集まったのは基本的に今年度からプロ契約を結び、J1からJ3までの各クラブへ加入することとなったルーキーたち。プロとしての契約は2月1日から始まるのが基本なので、法的にプロ選手となったその日から、この研修は始まっている。

 この3日間で集まった130人余りの新人選手たちは、Jリーグの経営、八百長などに対する個人としての危機管理・心構え、マスコミ対応からSNSの使い方まで含めたメディア対応、ルールテストといった多岐にわたる講習をこなしていった。その中でも彼らに強烈な印象を残したのは、村井満チェアマンの講演だったかもしれない。

 示したのは、シンプルに「数字」だ。10年前にJリーグの門戸をたたいた「新人」は全部で103名。そのうち、10年後にJ1クラブへ在籍しているのは19%で、J2が11%。引退までの平均は6.3年……。

 そのうち、選手たちが最も驚き、反応を示したのは「10年後の総出場試合数」である。村井チェアマンは「Jリーグの公式戦はリーグ戦とカップ戦を合わせて50試合弱。では、新人の10年後の出場試合数は、どのくらいが最も多いだろうか」とクイズ形式で選手たちに挙手させた。マックスが400〜500ということから逆算したのだろう。票が集まったのは200試合前後というもの。だが正解は、たったの2人しか挙手しなかった「0〜50試合」である。103人中46人が、ここに当てはまる。さらに46人の内18人は「0試合」。少々刺激のある数字だった。

「厳しい世界なのは分かっていたけれど、具体的にここまで厳しいとは思っていなかった」

 筑波大から川崎フロンターレへの加入が決まっているDF車屋紳太郎はそう言って苦笑いを浮かべた。「自信があるからプロに来た」と堂々断言する大物ルーキーにしても、自分の前に広がる世界が甘いものではないことを再認識する機会になったのだろう。

 プロ選手としての契約は「就職」とは根本的に違う。「プロになる」という言葉を、育成年代の指導者はよく「ゴール」のニュアンスとして使ってしまっているし、選手たちにも少なからずその意識が見え隠れする。ただ、実態は「ここからが勝負」。今回は、そんな厳しい世界の「スタートライン」に立った新人選手たちを紹介してみたい。

「新人感」を感じさせない期待の戦力

 一人目に挙げるのは、先ほどのコメントでも登場した車屋(筑波大→川崎)だ。元々は左利きの技巧派MFなのだが、体格に加えてスピードもあり、大津高校時代からDFとMFの兼用選手として活躍してきた。川崎でもセンターバック、左サイドバック、ボランチなど多様な起用法が考えられる。

 昨年はJFA・Jリーグ特別指定選手(大学サッカー部に籍を置きながらJリーグでもプレーできる制度)としてもチームに帯同。また筑波大では1年間だけとはいえ風間八宏監督の指導を受けており、普通の新人選手とは違うアドバンテージを持っている。「開幕スタメン、狙います」というフレーズ自体はありがちだが、車屋の場合は虚勢ではなくて現実的な目標。仮に開幕で出番がなくとも、シーズンの中でチャンスはあるだろう。

 大卒の即戦力という意味では、名古屋のDF大武峻(福岡大)の名前も外せない。新人研修は直前に不参加となったのだが、昨年から特別指定選手として先発出場も経験しており、「新人感」は車屋以上に希薄。いきなり背番号「5」を託されている事実も、そうした印象を加速させる。188センチ/83キロという巨体もまた新人離れしており、落ち着きある立ち居振る舞いも、やはりルーキーの枠を越えている。彼もまた「開幕スタメン」の有力候補だろう。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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