内山高志「1日1日強くなることが大事」=V9王者がボクシングに真摯な理由

船橋真二郎

日本人世界王者の最長記録更新

昨年の大みそかに1年ぶりの試合で10回TKO勝ちし、V9を達成したWBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志 【スポーツナビ】

 2014年の大みそか、東京・大田区総合体育館で9度目の防衛を果たしたWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志(ワタナベ)。この2月で王座在位期間は5年1カ月となり、日本人世界王者の最長記録5年を更新した。

「記録はそんなに気にしてないですね。ケガなどで今回のように長期間、試合ができないこともありましたし。特に期間は参考にならないと思いますね」
 内山はあっさり笑い飛ばすが、決して簡単なことではない。勝ち続ける実力が必要なのはもちろんのこと、乗り越えなければならないものは試合以外にもさまざまにある。

世界戦KO率8割の強打

ことし2月で王座在位期間は5年1カ月となり、日本人世界王者の最長記録5年を更新した 【花田裕次郎】

 例えば、これまでの記録保持者である長谷川穂積(真正)。ジムの移籍問題で試合間隔が8カ月、空いたこともあった。持ち上がっては諸事情で立ち消えになった米・ラスベガス進出や王座統一戦の話。後年は体重調整にも苦労した。また、日本のジム所属の世界王者の最長在位記録5年4カ月を持つロシア出身の勇利アルバチャコフ(協栄)。右拳の骨折で1年3カ月もの長期ブランクを余儀なくされると、ケガ明けの防衛戦で王座から陥落した。

 2人の連続防衛回数はWBC世界バンタム級王者時代の長谷川が歴代2位の10、WBC世界フライ級王者の勇利は同3位タイの9。在位期間に比べて、確かに試合数は少ないと言える内山だが、数字の上では遜色ない。結果として同じような期間で同じような防衛数になるところにも、マネジメントの問題、モチベーションやコンディションの維持、不測あるいは慢性のケガなど、長期政権を築くためには諸条件をクリアしなければならないことが表れている。

 通算22勝18KO無敗1分。世界戦だけで9勝8KO1分と8割のKO率を誇るパンチ力、状況に応じて展開を組み立てられる試合構成力、内山の強さを表すキーワードはいくつもあるが、35歳になった今も安定した力を発揮し続けることができる、その強さを語る上で欠かせないのが内山の人間性の高さだろう。

ブランクを吹き飛ばした普段の節制

昨年の大みそかの試合は自身過去最長となる1年のブランクが空いたが、試合が決まらないなかでも、厳しいトレーニングを自らに課してきた 【スポーツナビ】

 挑戦者に同級9位のイスラエル・ペレス(アルゼンチン)を迎えた大みそかの防衛戦。不安視されたのは過去最長となる1年間のブランクだった。

 右拳に慢性的にケガを抱えている内山だが、理由はそれだけではない。昨年9月には、指名挑戦者(暫定王者)のブライアン・バスケス(コスタリカ)との防衛戦が決まりかけていた。だが、6度目の防衛戦で、内山が8回TKOで退けているバスケスがオファーを拒否し、試合は流れた。

「モチベーションが下がる部分は若干あった」と率直に振り返る内山。「でも、そこで練習量を落とてしまえば、体力とかもどんどん落ちてしまうから」と、試合が決まらないなかでも、厳しいトレーニングを自らに課してきた。一般的に年齢を重ねるとともに落ちにくくなる体重も、普段からの節制で試合がいつ決まってもいい状態に常に保たれているのだという。
「僕は天才肌じゃないですし、努力して努力して地道に上がってきた人間ですから、サボると弱くなるという気持ちが強い。それが毎日、必死でコツコツと練習することにつながっているんです」

努力の原点は雑用係だった大学時代

大学時代に補欠にも入れず、雑用係だったことが、努力の原点となった 【スポーツナビ】

 アマチュア時代、全日本選手権3連覇を含む4冠を達成している内山だが、初めての日本一は大学4年時と遅咲き。ボクシングを始めた花咲徳栄高校時代は3年時の国体準優勝が最高成績だった。全国から高校王者が集まる拓殖大学ボクシング部では入部当初は補欠にも選ばれず、雑用係に甘んじなければならなかった。この屈辱が内山を猛練習へと向かわせた。

 大学のリーグ戦が終わり、他の部員たちが帰省に、旅行に、と夏休みを満喫するなかでも、内山は自主練習を積み重ねた。その日々が実を結んだのは1年の秋。全日本選手権に出場した内山は、2回戦で拓殖大学の絶対的レギュラーだった先輩に競り勝ち、レギュラーの座を自らの手で勝ち獲るのだ。
「練習は裏切らない。逆に言えば、練習しないと裏切られる。努力してもダメなときはありますけど、努力するのは当たり前なんです」
 その姿勢はプロで絶対王者となった今も変わらない。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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