白鵬V33も“真の大鵬超え”はいつに 横綱を立ち直らせた天覧相撲

荒井太郎

硬さがあった初場所前半

13日目、取り直しの末に稀勢の里(左)を破り33回目の優勝を決めた白鵬 【写真は共同】

 前人未到の大記録は13日目にあっさりと達成された。それは白鵬と他の力士との実力差にまだまだ大きな隔たりがあることの証左でもあるのだが、本人は「楽ではなかった。疲れました」と振り返る。

 昨年の九州場所、4連覇で大鵬と並ぶ史上1位タイの32回目の優勝を飾ると、初場所の番付発表会見では「早々とこの初場所で(33回目の優勝を)決めたい」と意気込みを語った。一気に記録を更新し、早くプレッシャーから解放されたいとの思いもあったのだろう。「中日までは硬さがあった」と自らも認めた。

 5日目の勢戦は土俵際で突き落とされて腹から落ちたが、わずかに相手の右足かかとが俵を踏み越し、辛くも勝ちを拾った。翌日の遠藤戦も大振りの張り手や、相手の顔面を狙ったカチ上げなど荒々しい相撲で隙を与え、遠藤に懐に入られる場面もあった。さらに7日目、高安との一番は相手有利の左四つを許し、最後も土俵際で叩かれ物言いがつく微妙な一番をなんとかモノにした。立ち直りのきっかけとなったのは8日目の天覧相撲だった。

「陛下が来て、そこから良くなってきた。4年ぶりに来ていただいて感謝です」

 5年前の7月場所、野球賭博騒動で相撲協会は一切の外部表彰を辞退。優勝したものの天皇賜盃を抱けず、悔し涙を流した白鵬は陛下からのねぎらいの手紙で励まされた。陛下が相撲観戦されるのは協会が一連の不祥事に見舞われて以来初。当時、一人横綱として存亡の危機にひんする協会を支えてきた白鵬にとって、天覧相撲は誰よりも特別な思いがあった。

節目に立ちはだかる稀勢の里

 横綱、大関戦が続く終盤戦のほうがむしろ相撲は盤石だった。大事な一番ほど、抜群の集中力と執念を発揮できるのがこの横綱の最大の強みなのかもしれない。
 迎えた13日目、勝てば優勝の稀勢の里戦は、左を差すと一気呵成(かせい)に西土俵に寄り立てた。しかし、稀勢の里が土俵際で右に体を開きながら捨て身の小手投げ。両者はほぼ同時に土俵に落ちた。軍配は白鵬に上がったが、審判団からすかさず物言いがついた。
 大記録に挑む先にはいつも稀勢の里が立ちはだかった。双葉山の69連勝に挑んだ平成22年九州場所は2日目に連勝を63で止められた。25年7月場所14日目、43連勝で記録がストップした相手も稀勢の里。そして今回もすんなりとはいかなかった。
 白鵬が最も意識する相手は同じ横綱の日馬富士や鶴竜ではなく、稀勢の里であることは間違いない。この日も朝稽古や場所入りしてからの準備運動でいつもよりたっぷりと汗を流し、気合十分で臨んだのだった。
 果たして、取り直しの一番は気迫で上回る白鵬が力強い相撲で押し倒し、稀勢の里を一蹴した。一時は対戦成績で拮抗(きっこう)した時期もあったが、この1年では完全に圧倒。もはや敵ではなかった。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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