リスクを背負って獲得したソチでの勲章 スキージャンプ・清水礼留飛が得た経験

高野祐太

ジャンプはメンタルが8割

過去にソチのジャンプ台でとんだメモを読み返し、うまく飛べるようになったと話す清水 【高野 祐太】

 納得のいかなかった自身初の五輪のジャンプから一転、以降は「今できる仕事をする」ことができた清水。そこには、日頃から積み上げ、ひたむきにジャンプと向き合う姿勢が生きていた。

――大舞台できっちり修正できたというのはすごいですね。

 練習日誌を昔からずっとつけていて、W杯で一番良い順位を取れた前年のシーズンのソチ大会のメモを見返したんです。あの時、こういうふうに意識して飛んでいたというのを思い出して、まず練習の初日にやってみたら、いきなりうまく飛べるようになりました。これをずっと意識するのがいいなと。それが一番大きかったです。核心的なポイントをつかむことができました。

――その核心的なポイントとは?

 空中での目線を送る位置です。目線を下にするとその方向に(飛行曲線が)落ちて行ってしまうので、あごを突き出すような感じで、遠くを見てなるべく落ちないようにしました。そうしたら、滑りも踏み切りもあまり意識しなくても、うまく着地までつながって飛べたんです。ソチ五輪の時は、ラージヒルも含めてそこだけを意識して飛びました。

――カギになるポイントを見つけることができたことで、落ち着きを取り戻すことにもなった訳ですね。

 ジャンプはやっぱりメンタルが8割を占めるスポーツです。だから、心がどしっと決まっていないと難しいと思っています。W杯とか世界選手権を含めて、ヨーロッパを転戦していると、なかなか練習ができないので、公式練習からの限られた流れの中でうまく修正できる選手が、W杯でコンスタントに戦える選手だと思うので、難しいところですね。

リスクを背負っても自分らしさを出せた

団体でのメダル獲得は4人の力が終結した結果だった 【写真:ロイター/アフロ】

 ソチ五輪のスキージャンプと言えば、葛西紀明の活躍がひときわ脚光を浴びた。清水にとって、20歳以上も年齢が上の“レジェンド“と一緒に戦えたこと、そして銅メダル獲得に貢献できたことは収穫だったに違いない。

――葛西選手がラージヒル個人で銀メダルを取り、その後に行われたラージヒル団体では、一気に日本での関心に火が付いた状態でした。

 団体戦ではありますが、一人一人のジャンプが遠くに飛ばないと結果が出ないので、やっぱり個人戦より緊張感があります。でも、僕は失敗したらいけないと思うよりも、失敗でもいいというくらいの気持ちで飛ばないと絶対に後悔すると思っていたんです。リスクを背負うくらいでないと大舞台になればなるほど遠くまで飛ばないと思っています。自分らしさというか、自分の調子のよさを生かして4人全員が飛べたから、メダルが取れたのだと思います。

――4人のパフォーマンスが結集された力の大きさですね。

 すべてがかみ合えば金メダルを狙える調子だったと思います。全員が。(補欠に回った渡瀬)雄太さん(雪印メグミルク)も含めて日本チームとしてすごくいい流れがあったと思うし、葛西さん1人の力だけでもメダルは取れないもので、僕も含めて、(竹内)択さん(北野建設)、(伊東)大貴さん(雪印メグミルク)の、4人の力がうまくかみ合いました。

平昌までの時間は短い

平昌五輪までにはさらによい色のメダルを目指して、新たなことにも挑戦していく 【写真:アフロ】

 ソチ五輪を特別視していない清水だが、貴重な経験に刺激された思いというものがある。それらによって足場を固め、3年後の平昌五輪へと続く第一歩を踏みしめる。

――清水選手の地元の新潟県妙高市は、お父さんの久之さんを中心にしたジャンプ少年団が盛んな土地柄。清水選手の五輪出場で大いに盛り上がったと聞いています。入団希望もあるそうですが。

 増えていると思います。ありがたいことですね。

――ほかの多くのスポーツにたがわず、ジャンプの競技人口も安泰とは言えない中で、五輪でメダルを持ち帰ってくれた清水選手たちの日本ジャンプ界に対する貢献は大きいですね。

 貢献していると思ったことは1度もありませんけど、ただ僕たちがメダルを取ることによってジャンプに興味を持つ子供たちが増えてくれれば、こんなにうれしいことはありません。そこに、未来を担うジュニア選手が1人でもいてくれれば本当にありがたいです。

――ソチ五輪を経験して、見える世界が変わったということはありますか? 

 もちろん、世界で1位になるということはものすごいことだなと思いますし、やっぱりW杯を含めて生で世界トップのジャンプを見ることによって、1位の重みというか、こういうことをしたら、こういうふうになれるのかなというようなアイデアはたくさん浮かんでいます。

――それは、例えばどんな?

 道具で見ることが多いですかね。新しい型のビンディングをほかの選手が使っていたら、自分がはきたいと思うのは当然だと思うので、そっちで飛んでみたいなとか。道具の面でこれはどうなのかなというふうに思うことが多いです。

――常にアンテナを張っていて、好奇心旺盛。なんでも試してみるという姿勢ですね。

 自分でこれだけしかやらないと決めちゃうと、もったいない気がするので。スキー板に関しても、今やろうかなと考えていることがあります。現在の世界の10位くらいまでの選手はほとんどが、身長に対する制限いっぱいの長さの板から10センチくらい短くしなければならなくても、減量して得られるメリットの方を優先しているんです(※)。
 ということは、その方がよいということかなって。今季はもう間に合わないので、来季の夏くらいからやろうかと考えています。

――しかし、体重を減らすのは、食事制限や筋肉量の兼ね合いがあって、リスクを伴います。

 すでに体脂肪も少ないので、今の体重から2、3キロも減らすのはかなり難しいです。厳しいトレーニングをしているから、筋肉量を減らそうにも落ちてくれないですし。でも、世界のトップ10がそうなのであれば、それは試す価値はあるのだと考えています。将来的に五輪で勝つ、優勝するという目標を掲げるのであれば、確実に必要な要素だと思います。

――次の平昌五輪までは長いと感じますか、短いと感じますか?

 短いと思います。もう今シーズンもすぐに終わってしまうでしょうし、すぐに五輪が1年後ですとなってくると思いますから。それはソチを経験しているからこそ感じることかもしれないですね。

※スキージャンプのルールでは、最大で身長の145%までの長さの板の使用を認める規定があると同時に、体重が計算式に基づく基準より少なければ、その分、板の長さを減らさなければならない。板の表面積の大きさや体重の少なさによって生じる揚力上の有利さに制限をかけるため

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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