選手目線で語るつくばロボッツで起きた事 岡田優介から見た日本バスケ界<後編>

大島和人

「(チームを引き継ぐのであれば)契約は守ってほしかった」

つくばロボッツにとどまらない球団経営の問題。リーグのみならず、日本バスケ界全体の問題として考えなければいけない 【写真:アフロスポーツ】

――なぜ別法人に切り替え、契約を見直すという話になったのでしょう?

 新法人(つくばスポーツエンターテインメント)に切り替えるという話を、サイバーダイン側が選んだということですよね。リーグとしてはとにかく、つくばロボッツというチームを残してほしいという思いがあったはずです。もちろん選手たちが残るというのは大前提で、リーグとしても、こんな状態は望んでいなかったでしょう。

――新法人に切り替わることを、選手たちはどう受け止めていたのですか?

 異議を唱えました。ただサイバーダインの人間が「そうじゃなければ(支援を)止めます」と言ったんです。僕らは「それなら止めてくださいよ」と。自由契約リストに全員で名前を出しましょうとなったんです。

 選手たちとしては当然、自分たちは1年間で契約しているのだから、(チームを引き継ぐのであれば)それは守ってくれという考えです。(契約の見直しが)シーズン終了間際ならまだ分かるけれども、シーズンが始まる前の、チームが立ち上がって1カ月や2カ月のところでしたから。自分たちの契約が破棄されるのならば、少なくとも自由契約リストに掲載して、他チームからのオファーと比較させてもらうことが正当な権利ですよねということです。

(新法人側の)言い分は旧法人(ISA)がどんな負債を負っているか分からない。そういう不透明性があるから、新しい法人を作るということでした。しかし、本質は選手たちの給与を大きく削りたかったということなのではないかと僕は考えています。

――話し合いの経緯はどういうものだったのですか?

 彼らは「交渉をした」と言っているようですが、交渉ではなかったと感じています。新法人からオファーがあったのは10月12日。開幕週の3日目が終わった段階です。「これしか出せません。やれますか? やれませんか? YESかNOかで答えてください」「その日の夜11時までに答えをだしてください」ということでした。12日の午後6時に新しい、大減俸のオファーを出されて、夜の11時までに答えろということだったんです。

(面談を)30分刻みでやっているので、最後の人は夜10時くらいだったんです。10時の選手に対しても、11時までに答えてくださいという……。異常なオファーの仕方だったし、条件も事前のミーティングで言っていた減俸率ともかけ離れていました。なぜこんなことをしたかというと、自由契約リストに載せる猶予すら与えたくなかったからだと思います。リーグ側と新法人側はこの問題が明るみになることを避けたかったのでしょう。

「同じことが起こらない仕組みを作らなければいけない」

昨シーズンのNBLファイナル準優勝チームながら、運営会社が経営悪化に陥った和歌山トライアンズ 【写真:アフロスポーツ】

――つくばロボッツの経営悪化、選手の大量退団による負の波紋があったと思いますが、リーグや日本バスケ界にどういう影響があったと考えますか?

 こういうことが起こり得るということが、多くの人に分かってしまったということです。そして一番身近に感じたのが、今大学に在学しているトップ選手だと思います。彼らは自分の人生をちょうど考えている時期。こんなことが起きるのだから、プロチームは危ないと思ってしまうかもしれない。FIBAが言う“ガバナンス問題”を、証明してしまったようなものです。せっかくプロ化の流れが少しずつできていたのに、本当にもったいないことだと思います。

――つくばロボッツの経営悪化に対する、リーグの責任についてはどう考えていますか?

 とにかく(チームの)数だけを増やして、審査はおろそかにして、継続的なサポートも十分にできなかった。(つくばと和歌山の)2チームだけでなく、他にも大変なチームがあったと僕は聞いています。14年はリーマンショックがあったわけでないし、大震災があったわけでもありません。なのに、同じシーズンで2チームもつぶれてしまった。リーグに責任が無いわけがないし、同じことが起こらないような仕組みを作らなくてはいけません。株式会社の経営の話だから、経営破たんは今後も起こり得ます。しかし最低でもシーズン終了後の撤退にしなければ、いろいろな人たちに迷惑がかかってしまいます。

――つくばロボッツの選手たちのその後はどうなっていますか?

 日本人選手が13人いて、11人が自由契約になりました。2人は(その後の再交渉で)つくばに戻っています。残る9人のうち1人がNBLの千葉ジェッツに移り、もう1人がbjの信州ブレイブウォリアーズに行きました。1人は引退しました。他の6人は決まっていないです(※その後、5名の選手が和歌山トライアンズに移籍)。引退した浅野(崇文)はもう嫌気がさしたと。すごく良い選手で、全然(プロで)できたんですけれど、この騒動でバスケ界を見限ったということです。

――岡田選手自身の今後のキャリアは?

 僕はプレーするつもりです。いち早くコートに立とうと、スケジュールを立てて練習しています。オファーはいくつか頂いています。ただ条件は相当厳しい。今季についてはタダ同然でも、プレーすることが最優先になるでしょう。

<了>

※元NBL専務理事兼COO(最高執行責任者)であり、つくばロボッツの経営を引き継いだ新法人・つくばスポーツエンターテインメントの社長・山谷拓志氏のインタビューも、近日中に掲載します。

岡田優介

 1984年9月17日生、東京都出身。土浦日大高校、青山学院大学卒。2007年にトヨタ自動車アルバルク東京へ加入。日本代表には10年、11年、14年に選出されている。14年からはつくばロボッツでプレーするも12月に自由契約となった。15年1月現在は新チームと交渉中。コート上以外にも活躍の場を広げ、10年に現役バスケットボール選手としては異例の公認会計士試験に合格。13年には一般社団法人日本バスケットボール選手会設立と同時に、会長に就任している。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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