39歳で外野手に、松井稼頭央の勇気 元個人コーチが語る身体能力以外の才能

中島大輔

長らく守った遊撃手からの転向

今年10月には40歳を迎える松井。日本球界を代表する内野手が外野でどのような姿を見せるか? 【写真は共同】

 日本シリーズ開幕のころに40歳を迎える2015年、東北楽天の松井稼頭央は新しい挑戦を始める。長らく守ってきたショートを離れ、外野一本にポジションを移すのだ。チームの戦力を考えると、センターを守ることが予想される。

「センターでは、カズ(松井)が生きるかもしれないですね」

 そう予想するのは、松井を最もよく知るひとりの熊澤とおる氏だ。熊澤氏は1991年ドラフト3位で西武に入団し、7年間の現役生活を過ごした後に同球団の2軍サブマネージャーや打撃コーチに転身。松井が02年に打率3割3分2厘、36本塁打、33盗塁のトリプルスリーを達成した際には、練習パートナーとして偉業をサポートした。

 自身も外野手だった熊澤氏が、松井のセンターへの適合性について太鼓判を押す。

「センターではボールまでビャーと行って、パッと捕って、ホームにビヤーって投げるようなプレーを見せられます。秋山幸二さんが西武から(福岡)ダイエー(現ソフトバンク)に移籍されたとき、ダイエーの投手陣は『抜かれたと思った当たりを捕ってくれた』とよく言っていましたよね。カズにはあれだけの走力と肩があるから、練習すれば勘はすぐに出るでしょう」

打撃ゲージで目が変わる

 松井と熊澤氏の出会いは94年にさかのぼる。熊澤氏は高卒3年目の春季キャンプで松井を初めて見て、日本人離れしたマインドに衝撃を隠せなかった。

「日本ってよく、グラウンドで笑っているとダメな雰囲気があるじゃないですか。普段のカズは関西チックな感じでいるけど、ひと度バッティングケージに入るとプレーに対する目がガラッと変わるんです。『えっ?』て感じましたね。そんな人、超レギュラークラスでも見たことがなかったから」

 2歳離れた松井と熊澤氏は、気づけば仲良くなっていた。両者の関係が密になったのは、熊澤氏がユニホームを脱ぐ98年ごろ。野球に対する感覚が、一致していることに気づいたのだ。

「カズ、テレビで試合を見たけど、こうしたほうがいいんじゃない?」

 熊澤氏は運動動作やトレーニング法を独学し、松井に助言を送った。1軍で1度も出場したことがない先輩の言葉に、松井は聞き耳を立てた。すると、ヒットが出た。「カズ、こうなんじゃない?」。実践すると、今度はホームランが飛び出した。そうした日々を積み重ねるうちに、信頼関係は強固さを増していた。

目的を持って挑戦できる勇気

 7年間の現役生活に終止符を打った熊澤氏は、西武の2軍サブマネージャーに就任する。普段から松井の練習パートナーになり、とりわけシーズンオフはつきっきりだった。「オフ」と表現されるこの時期の過ごし方こそ、松井の一流たる理由だと熊澤氏は語る。

「オフのシーズンでも、カズはほかの人がやらないような練習をずっと続けてきました。今の若い選手は、彼がやってきたことをマネできないんじゃないですかね。カズが一番すごいのは、努力できる才能と勇気だと思います」

 天から授かった俊敏性とパワーに、松井は意志を込めた。助言や提案、練習サポートという栄養を与えて一緒に果実を膨らませた熊澤氏は、松井の「勇気」をこう定義する。

「自分でやってきたことを段階、段階で見つめ直して、『これまではこういうやり方で成功したけれども、次の5年間はこうしよう』と目的を持って新しいものにチャレンジしていく勇気がある。それが一番大事だと思います」
 

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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