松岡修造氏が語る2015年の錦織圭「世界中の解説者が優勝候補に挙げる」
錦織の2015年シーズンを熱く語る松岡氏 【スポーツナビ】
もっとも、このシーズン頭のスケジュールは過去3年と同じ日程で、錦織はこの後、現在行われているエキシビションマッチ「クーヨン・クラシック」を経て「全豪オープン」へと入っていく予定だ。
全豪オープンでは自己最高の第5シードも確定。16日に行われる抽選で組み合わせも決定する。
今や、テニス界を超えて注目を集める存在となった錦織。日本人初のグランドスラム優勝が目前に迫った2015年シーズンや全豪オープンでの戦い方を、WOWOWで全豪オープンの解説を務め、日本テニス協会強化副本部長でもある松岡修造氏に聞いた。
新シーズンを迎える難しさ
錦織のシーズン初戦となったブリスベン国際のシングルスではラオニッチ(カナダ)に競り負け準決勝敗退となった 【写真:Action Images/アフロ】
素晴らしいテニスでしたね。テーマにしていたサービスも一度も落とさず完璧な内容。全豪オープン、よい形で迎えることができそうですね。
――ブリンスベン国際に出場するスケジュールについて?
結果はいい方がもちろんプラスとして戦えるのは間違いないでしょうけど、大事なのは試合をたくさんこなすことですね。(シーズン終了から)約1カ月間くらい試合をしていないので、試合の感覚をとにかくつかむために、たくさん試合をしたいわけです。
それは練習試合じゃなくて本当の試合をしたい。そのためにも試合に勝つということ。しかもその試合をしている間に自分のテンポをつかんでいくこと。そのテンポというのは自然に強打していけること。錦織選手で言えば一時期スーパーゾーンに入りましたけど、その感覚に近いものを試合中に1回か2回取っておけば、どういうリズムにすればそこに入れるっていうのがわかるんですね。それさえつかむことができれば、一番大事なグランドスラムの全豪でいいスタートを切れると思います。
――試合勘を取り戻すことがやはり重要に?
試合勘を取り戻すための一番のポイントは体力なんです。体力があればいつも「10」で打っているところが「7」でいい。「7」の力で3本も4本もラリーを続けてポイントを取っていく。そうしたら錦織選手は100パーセント負けることはないです。
ただその体力があるかどうか。だから準備が必要で、僕はポイントはそこにあると思います。それでしっかり1セット取ったとすれば、もう「8」、「9」の力でミスがあっても打っていけばいいんです。そうすれば彼本来のテニスの調子というのが彼の中で注入されていくので、怖くなくなっていく。余計な考え方をせずにナチュラルにプレーができれば、あとは相手を見るだけですから、彼らしいプレーができると思います。
シングルス、ダブルスの両方に出場したブリスベン国際。ドルゴポロフ(ウクライナ)と組んだダブルスでは準優勝と結果を残した 【写真:ロイター/アフロ】
やっぱり「波乱が起こりやすい」と言われています。年末にテニスラケットを置く期間が選手によって違うんですけど、1、2週間置く選手もいますしね。ただ、グランドスラムは一番体力が必要な大会なので、体力的なトレーニングが整っていないと崩れてしまい、だから波乱が起きる。
でもそれ以上に大事なのは「フレッシュ」でいないといけないということ。何か疲れた感覚で入ってしまったら、間違いなく気持ちが持たない。テニスだけじゃなく体力的な暑さもある場所(オーストラリアは夏)なので、どれだけフレッシュでいられるか。
錦織選手は11月のATPファイナルが終わったときに「もう1週、試合があってもよかった」と言いました。それくらいテニスをやりたかった。やりたい中で終われた。フレッシュさをほかの選手よりも持っている、それは大きな武器だと思います。
――具体的なプレーにブランクは表れるのでしょうか?
一番わかりやすいのは錦織選手自身が自然にボールを打てているかどうか。調子が良いときは怖がらずに振れば入る感覚があります。スーパーゾーンとはちょっと違って、フィーリングが合っているかどうかなんですね。
フィーリングが合ってない人がどうなるかというと、とにかく足を動かして、体でしのいでしのいでプレーをし始める。フィーリングが合っていないと、どうしても守りになってしまう。こうなると強いボールが打ちたくてもその感覚の前に打てなくなってしまうんですよ。それでどんどんテニスが悪くなってくるんです。
彼のテニスと、若さと、勢い
錦織も出場したブリスベン国際シングルスで優勝したフェデラー(スイス)はキャリア1000勝を達成 【写真:ロイター/アフロ】
高いのは間違いなく、逆に期待しない方がおかしいと思います。今、世界中のテニス解説者で、グランドスラムの優勝候補に錦織選手を挙げない方はゼロ、間違いなく挙げます。それは彼のテニスと、若さと、勢い、ですね。結果も出している。
昨年の全米オープンの決勝で敗れたマリン・チリッチ(クロアチア)戦は、一つの経験として、錦織選手のテニスができなかった。チリッチに負けたというよりも、自分に負けたという捉え方を僕はしていますし、錦織選手もしています。今度同じような舞台に立ったときにどうできるかと。
――ビッグ4、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、アンディ・マレー(イギリス)との比較は?
ビッグ4の選手たちは、年齢的なことも含めて、この世界最高峰の場所で戦える時間が少なくなってきているという危機感がある。特に(33歳の)フェデラーはラストイヤーかなというのがいつもある。その危機感が逆に強さになっていく可能性もある。その強さに対して「じゃあいつも勝てるか」というと「?」になってくる。2015年の今年、錦織選手が4大大会を勝っても驚かないし、仮に勝てなかったとしても、どんどん確率は高くなっていくでしょう。
楽天ジャパンオープン2014で優勝し記者会見に応じる錦織 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
僕にはそこが一番新鮮だったんですよ。どちらかというと「チャレンジャーという思いで今までと変わらずにやっていく」と錦織選手は僕に言うと思っていたんですけど「修造さん、そうじゃない」と。「自分は守っていかなきゃいけない。今のポジションを守りながらどうやってトップになっていくか」と。これはもう完全にトップ選手の考え方になっています。一番の驚きでもあり喜びでもあります。
そういう人は日本はもちろん、アジアにもいなかった。今の錦織選手の言葉は、同じテニス選手として、全部、日本テニス協会の財産になっています。
――日本国民の注目度も格段に上がったがその影響は?
これは正直プラスに出ると思います。錦織選手は「楽天ジャパンオープンで勝てた理由は期待があったから。期待がなければあそこまで戦えなかった」と言っていました。海外の他の大会だったら途中棄権していたかもしれない。ATPワールドツアー後に日本に戻ってきたとき、日本での反響がどれだけすごかったか、肌で感じていたと思います。スポンサーイベントや撮影、取材、テレビ出演をしていましたが、そのあとはフロリダに戻り、しっかりと休みをとり、マイケルとの練習を再開させた。もっともいい形でオフを過ごせたと思います。もちろんスポンサーさんとか、いろんな方たちはもっと日本で活動してほしいわけですよ。でも、何が一番彼にとって大事なのかわかっている。日本の皆さんが試合で勝ってほしいと思っていること、そこを感じているから、錦織選手はそういう行動をとったんだと思いますね。