“原点回帰”を感じた高校選手権 現代の育成年代サッカーに反映されたもの

川端暁彦

サッカーの流行は巡る

第93回全国高校サッカー選手権は、昨年のリベンジを果たした星稜の初優勝で幕を閉じた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「バック・トゥー・ザ・フューチャー」

 星稜(石川)の初優勝で幕を閉じた第93回全国高校サッカー選手権がクライマックスを迎えていたちょうど同じ頃、1月10日から12日にかけて日本サッカー協会主催の大規模指導者勉強会と言うべきフットボールカンファレンスが行われた。その席上、ドイツサッカー連盟のラルス・イゼケは先のブラジルワールドカップ(W杯)で見られた現代サッカーのトレンドを、冒頭の言葉で形容した。

 トレンドは巡るもの。それはファッションの世界でもそうだが、サッカーの世界でも同じことだとはよく言われる話だ。「いま流行っているものは、必ずしも新しいものというわけではなく、リバイバルされたもの」(イゼケ)である。高校サッカー選手権においても、そうした傾向は古くから見て取れた。それが時には「流行先取り」となることもある。

 1997年度に「3冠」を成し遂げた当時の東福岡(福岡)は、両ウイングを広くワイドに張らせるサッカーで圧倒的強さを見せた。流行していた3バック破りの手段として、あるいはプレッシングを回避する方法として、当時のトレンドを打ち破るスタイルは、未来を予感させるものだった。あるジャーナリストはそれを「ウイングを使った古くさいサッカー」と酷評していたのだが、これはサッカーを「新しい」と「古い」で評価してしまうことの危険性をよく表している。その後のサッカー界で起きたのが「ウイングの復権」だったことは今さら説明するまでもない。やはり、流行は巡るのだ。それはもちろん、アレンジがあった上での巡りだが。

日本サッカー界の課題「インテンシティー」

 一般に日本人はトレンドに弱いらしい。それは敏感ということでもある。丸岡(福井)の小阪康弘監督は、5バックシステムを導入するにあたって、W杯で同様のシステムを使ったチームが躍進したことを選手たちに説明することでスムーズな落とし込みに成功したと言う。「これが流行っているんだ」と言われると、何だか納得してしまうのが、良くも悪くも日本人らしさの一つなのかもしれない。

 今回のW杯で強調されたのは、「インテンシティー」という耳慣れぬ言葉だった。プレー強度などと翻訳されるこの言葉の解釈は、プレーする上で「しんどいこと、キツイことを続ける能力」と言ってしまえばいいだろうか。ボールを奪いに行くために身体的接触を行うこともそうだし、ボールを奪うために走ることもそうだし、カウンターを受けて戻ることもそうだし、あるいは逆にボールを奪って前に出て行くこともそうだし、そしてそれを繰り返すこともまたそうだ。当然ながら、そこには肉体的な消耗の激しい状況でもなお技術的精度と戦術的秩序を保てるクオリティーが伴っていなければいけない。

 それができるチームが強いし、勝てる。W杯で出た一つの結論であり、「果たして、そんなインテンシティーを持った選手をどう育てればいいのか?」というのが、日本サッカー界に突き付けられた課題でもあった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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