「自分たちのバレー」で勝ち切った金蘭会 春高で別人に成長した1年生エース・宮部

田中夕子

キャプテンのトスをエースが決める

春高バレー初優勝を果たした金蘭会。3冠タイトルを総なめにする強さを見せた 【坂本清】

 最後のポイントは、ここしかない。金蘭会(大阪)のセッターでキャプテン、堀込奈央に迷いはなかった。

「最後はエースに決めてほしかった。すべてを託しました」

 レフトにいた1年生エースの宮部藍梨も「自分に(トスが)来る」と確信を持って助走に入った。

「『決めてほしい』という気持ちが伝わってきたので、絶対に応えたいと思い切り打ちました」

 宮部の放ったスパイクは2枚ブロックの上から、コート後方にいるレシーバーをはじき飛ばし、金蘭会の高校選手権(春高)初優勝が決まった。インターハイ、国体に続く高校3冠タイトルの獲得に、3年生で159センチの小さなセッターと、182センチの1年生エースは顔をくしゃくしゃにしながら抱き合い、勝利を称え合った。

 2020年の東京五輪での活躍を期待される、日本バレーボール協会の強化指定選手であり、昨年、一昨年と全日本候補選手にも選出された古賀紗理那(熊本信愛女学院/熊本)や、昨年韓国で行われたアジア大会にも出場し最年少ながらチーム1と言っても過言ではない活躍を見せた坂本奈々香(北九州/福岡)など、今大会は将来を嘱望される選手が多くそろった大会でもあった。

金蘭会にとっての「自分たちのバレー」

金蘭会の強さの秘密は宮部だけではない。チーム全体の共通認識と徹底された約束事がある 【坂本清】

 注目選手を擁する学校が優勝候補として名を連ねる中、その筆頭だったのが金蘭会である。1年生ながら、古賀や坂本と同様に強化指定選手に選ばれている宮部も、やはり将来の活躍を有望視される選手の1人ではあるのだが、金蘭会が全国制覇、しかも3冠タイトルを総なめにする強さを擁したのは、宮部1人の力ではない。

 準決勝の東九州龍谷(大分)戦に勝利し、初の決勝進出を決めた後、堀込は自信を持ってこう言った。

「自分たちのバレーが、一番大事なところでできました」

 自分たちのバレー。これは高校に限らず、大学やVリーグ、全日本でもよく聞かれる常套句でもある。だがその本質を問うと、ミスをしないとか、普段練習してきたことを出せたとか、答えが曖昧であることも少なくない。

 では、金蘭会はどうか。実にシンプルではあるが、彼女たちのバレーボールには確実な「形」がある。例えば、相手がチャンスボールを返す際にトスを上げるセッターを狙うことは多々あり、高校生ではその後に誰がトスを上げるのかがはっきりせず、選手同士がぶつかってしまったり、小さなミスからチャンスがチャンスでなくなることは珍しくない。

 他校と金蘭会の違いがあるとすれば、まずはここ。セッターの堀込がレシーブをしたら、2本目をトスにするのは、リベロの小池杏菜であり、堀込は小池がトスを上げやすいように「やや高めにレシーブボールを返球するのも徹底されている」と小池は言う。

「もともとトスは得意だったけれど、リベロがトスを上げればスパイカーはそれだけ攻撃の準備に入れるし、高いトスもスピードを生かした攻撃も、スパイカーに合わせたトスを上げられるようにオーバートスの練習はずっと続けてきました」

 決勝でも宮部には高さを生かせるトスを上げ、ライトの白澤明香里には平行軌道のトスを上げるなど、リベロとして守備を固めるだけでなく、小池がセカンドセッターとしての役割を完璧に果たせていたことも金蘭会の強みの1つだ。

 加えて、チャンスボールをセッターではなく、これから攻撃に入ろうとしているスパイカーに向けて返された時は、後衛にいる選手が代わりにボールを取り、スパイカーは攻撃の準備をするなど、チーム全体の共通認識として、この場面では誰が取り、誰が上げ、誰が打つ、という約束事が徹底されていた。

 まさに自信を持って「自分たちのバレー」ができた。準決勝だけでなく、決勝もその満足感が溢れていた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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