もう落胆は味わいたくない前橋育英の挑戦 山田監督も「まだまだダメ」と切り捨てる

安藤隆人

選手権を前に味わった大きな落胆

3回戦でPK戦の末、辛くも山梨学院に勝利した前橋育英。本来の姿をいまだ見せることができていない 【写真は共同】

 前橋育英(群馬)は第93回全国高校サッカー選手権大会に臨む前に、大きな落胆を味わっていた。

 12月15日、広島で行われた高円宮杯プレミアリーグ参入戦。1回戦で立正大淞南(島根)に4−2で勝利した前橋育英は、決勝戦で履正社(大阪)と対戦。これに勝てば来年の高円宮杯プレミアリーグイーストに昇格できる重要な一戦。実はその前年も前橋育英は参入戦で藤枝東(静岡)に敗れ、プレミア昇格を逃しており、今年の目標は選手権優勝の他に、プレミアリーグ昇格を掲げていた。

 しかし、結果は0−2の敗戦。「本当にショックだった」と、山田耕介監督が語ったように、選手たちは大きく落胆した。

「本当に悔しかった。今でも悔しいけれど、選手権は絶対に獲りにいく気持ちが強くなった」(鈴木徳真主将)

 高校総体(インターハイ)ベスト4、参入戦敗退と、あと一歩で届かないタイトル。最後の選手権でつかむべく、モチベーションは非常に高い。

前評判に反し大苦戦

2回戦では初芝橋本に1−0の辛勝と、持ち前の攻撃力は影を潜めた。宮本(右)ら個性豊かな顔ぶれで、悲願のタイトル獲得を目指す 【写真は共同】

 そして迎えた選手権。大会前からチームの評判は高かった。それは鈴木と渡邊凌磨の2枚看板の存在が大きい。この2人は常に年代別代表に名を連ね、3年前にAFC U−16選手権(イラン)に出場し、準優勝に貢献。一昨年はU−17ワールドカップ(UAE)に出場し、ベスト16進出を果たした。昨年もU−19日本代表候補に名を連ねる(共にけがで辞退)など、常にこの年代のトップを走ってきた。

 さらに安定感抜群のGK吉田舜、長身センターバック宮本鉄平、正確なキックが売りの左サイドバック岩浩平、運動量豊富なボランチ吉永大志。前線からの猛プレスが魅力のFW青柳燎汰、強烈なシュート力を持つFW関戸裕希、ドリブラーのMF坂元達裕ら、個性的な選手が脇を固める。

 強力な陣容で臨んだ選手権だったが、初戦は初芝橋本(和歌山)に大苦戦を強いられる。「初芝橋本のスピードとパワーの前に押し込まれてしまった。うちはとにかくダメだった。こんなサッカーをしていたら、勝ち上がることは難しい」と山田監督が切り捨てたように、持ち前のパスワークは影を潜め、ロングボールが多くなってしまった。

「2年ぶりの選手権で、やっぱりこの独特の雰囲気に戸惑いがありました。全体が硬かったので、今日はリスクマネジメントに徹しようと思った」

 一昨年の選手権を経験している鈴木は、チーム全体の硬さを感じ取り、低めにポジションを取って、守備に専念する選択をした。鈴木の活躍もあり、コーナーキックからの先制点を守り切る形で、初戦をものにした。

試合を重ねるごとに得る手応え

 前橋育英らしさを出せなかったが、次に進むことはできた。そして、3回戦の山梨学院(山梨)戦。ようやくその実力の片鱗を見ることができた。

 前半からハイテンポなパス回しで、リズムをつかんだ。鈴木も初戦とは打って変わって、高い位置に飛び出すようになった。だが、ゴールが遠い。

「前半はただボールを回しているだけだった。それじゃ話にならない。シュートで終わってこそ意味がある。ハーフタイムではもっと積極的にシュートを狙って、ボックス内で(ゴールへの)執着心を出せと怒りました」(山田監督)

 後半に入ると、渡邊をはじめ、青柳、関戸らが積極的にシュートを放つ。後半2分に先制を許すも、同10分に初戦と同じ形(渡邊の左CKから宮本のヘッド)で追いつき、そこからは多くの決定機を作った。

 結果はPK戦での勝利(6−5)。準々決勝進出を決めたが、まだまだ前橋育英の本領を発揮したとはいえない。持ち味は攻撃力で、流れの中からゴールをこじ開けて勝利を収めること。

「初戦に比べたら、シュートも打てていたが、まだまだこんなサッカーをしていたらダメですね。監督からは『ボール回しゲームに見える』と言われましたし、これまでできていたことができないのは、自分たちに責任がある。ここからはさらに厳しい戦いになると思うので、もう一度チームとして高い意識を持って臨みたい。僕自身も良い時の感覚をもう一度つかんで、ゴールという結果を残したい」

 渡邊は力強く言い切った。山田監督も「初戦よりは良くなってきているが、まだまだ。細かいパスだけでなく、シュートをもっと打っていかないと。プライオリティーの一番に来るのがシュートだと、もう一度徹底したい」と、準々決勝以降への意欲を口にした。

 本領を発揮しきれていないことは理解している一方で、試合を重ねるごとに良くなっている手応えを感じている。だからこそ、本物の姿を早く見せたい。

 もう落胆は味わいたくない。這い上がってきた『上州のタイガーブラック集団』は、強い決意とモチベーションを持って、京都橘(京都)戦に挑む。
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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