今大会最注目校、2冠を狙う東福岡 充実の布陣で16年ぶりの優勝に挑む

松尾祐希

夏の王者として挑む“赤い彗星”

夏の高校総体を圧倒的な強さで制した東福岡。今大会の優勝候補筆頭であることは間違いない 【写真:アフロスポーツ】

 6試合26得点という圧倒的な攻撃力を余す事無く見せつけ、17年ぶりに夏の高校総体を制した東福岡。4月以降の公式戦においては、全国高等学校体育連盟(高体連)のチームから1度の負けも喫しておらず、勢いそのままに30日の三鷹(東京B)との第93回選手権開幕戦へと臨む。他校の指導者からも「あそこは別格」と評され、チーム力の高さは今大会ナンバー1と言っても過言ではない。

 今年の“赤い彗星”(東福岡の愛称)を牽引するのが、高校卒業後にJリーグの舞台へと進む2人だ。J1横浜F・マリノス内定のU−18日本代表MF中島賢星は、中学3年生の時から当時所属していたアビスパ福岡U−15でプレミアリーグWESTの試合に出場。東福岡に進学した後も順調に成長を遂げ、3年生となった今年は4−1−4−1の2シャドーの位置から、182センチの恵まれた体格を生かしたボールキープと確かな技術で攻撃のタクトを揮う。今年は主将の重責も背負い、メンタル面も向上。心技体がそろった今大会屈指の司令塔だ。

 一方、J1ヴィッセル神戸に内定しているMF増山朝陽は東福岡伝統のサイド攻撃を担う存在だ。スペイン系フィリピン人の母を持つ希代の高速アタッカーは、高い身体能力を生かし、周囲から「『縦を切られていても行けよ』と言われる」という勇猛果敢な仕掛けで右サイドを制圧。ボールを運ぶ姿勢、フェイントを仕掛けるタイミングはレアル・マドリー所属のクリスティアーノ・ロナウドを彷彿とさせ、ボールを持つだけでスタンドを湧かせることができる『ヒガシのクリロナ』だ。

攻守において個性豊かな充実の布陣

左サイドの赤木は巧みなドリブルと高い決定力を兼ね備え、県大会では4得点を奪う活躍を見せた 【松尾祐希】

 この2人以外にも今年の東福岡にはタレントがそろっている。巧みなドリブルと高い決定力を見せる左サイドのMF赤木翼や、ラグビー選手と見間違えるほどの体格を持つ総体得点王のFW木藤舜介、2年生ながらポジションをつかみ、中島の脇で献身的なプレーを見せるMF中村健人らが織りなす攻撃陣は迫力満点。伝統のサイド攻撃で相手守備陣を切り裂くこともできれば、中央に構える中島、木藤、中村がゴールをこじ開けることもできる。この多彩な攻撃こそ、今年のチームの真骨頂と言えるだろう。

 守備に目を向けると、対人プレーに長けたDF小笠原佳祐、DF加奈川凌矢のセンターバックコンビを軸に、左にキックの精度が高いDF末永巧、右には献身性に優れたDF堀吏規伸の両サイドバックが堅守を披露。さらに、最後尾に構えるU−17日本代表GK脇野敦至の成長が守備陣を1ランク上に押し上げた。50メートル6.3秒というGKとしてはトップクラスのスピードを誇る2年生守護神は、積極的な飛び出しでDFラインの裏のスペースをケア。それにより、最終ラインはちゅうちょする事無くボールホルダーにいくことができるようなった。

 そして、何と言っても欠かせないのがMF近藤大貴だ。中盤の底で長短織り交ぜたパスで攻撃にスイッチを入れる役割と、気の利いたポジションニングで中盤の守備を一手に引き受ける。彼の存在なくして今年の東福岡の強さは語れないと言っても、決して大げさではない。

3冠を達成したチームに匹敵する実力

主将としてチームを牽引する中島(左)は、高校卒業後に横浜FMへの加入が内定している 【松尾祐希】

 圧倒的な攻撃力で勝利を収めてきたチームも全て順風満帆に歩んで来たわけではない。今でこそ圧倒的な攻撃力を最後まで貫き通すスタイルを確立したが、春先の新人戦では、大雪の影響でレギュレーション変更などがあったとはいえ、消極的な戦い振りで予選リーグ敗退。その直後に挑んだサニックス杯国際ユースサッカー大会でも5位と思うような結果を残せなかった。

 しかし、夏の全国高校総体では初戦から積極的な攻撃を展開。準決勝後に森重潤也監督が「何が起こるか分からないから、攻撃の手は緩められない」と語ったように、大会を通じてリードを奪ってからも攻撃し続け、得点を量産。相手に飲み込まれる前に、相手を飲み込んでしまう攻撃力で全国高校総体を制した。夏に身に付けたこの姿勢こそ、全国のライバル達から恐れられる最大の要因になっている。

 3冠(総体・全日本ユース・選手権)を達成した1997年、選手権を連覇した98年以降、冬の大舞台で思うような結果を残せていない東福岡。しかし、今年は頂点を取れるだけのタレントに加え、総体を制すなど結果を残して自信も得てきた。そんな今年のチームに関し、志波芳則総監督も「3冠を達成したチーム(97年)に匹敵する」と太鼓判を押す。

 その一方で、選手達は「まだまだ満足できない」(中島)、「またチャンピンになりたい」(赤木)と勝利に対する飢餓感を口にしており、チームに隙は見当たらない。

 夏の王者として挑む以上相手からのマークが厳しくなることに関しても、県大会決勝(1−0で勝利)後に増山が語っており、「九州国際大附みたいに相手が引いてブロックを固めてきても、それをかいくぐっていけるだけのスピードと質を高めていかないといけない。全国に行けばそのようなチームはたくさんあると思うので」と、ここの想定も抜かり無くできている。

 昨年の選手権で敗退した(編注:3回戦で日章学園にPK負け)直後に赤木がスタンドに向けて叫んだ一言。

「絶対来年戻ってきてやるからな!」

 この言葉の通り、選手権に戻ってきた。2冠を狙う“赤い彗星”の戦いは30日の開会式直後の三鷹(東京B)との開幕戦から始まる。
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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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