慶応高、サラリーマン監督と狙う日本一 「僕らの何がわかる?」反発の部員を説得

斉藤健仁

アプリも使って選手とコミュニケーション

攻撃のキープレイヤーとなるSO/FB丹治辰碩 【斉藤健仁】

 そんな中でも、まず稲葉監督が試合形式以外で行ったのは7対5だった。アタック側は数的有利な状況だが、その2人は常にライン際しか走れない条件を付けて、ボールを動かしてトライを狙った。ディフェンス側も、常に相手が多い状況の中で、どうディフェンスするかを考えさせた。人を最初から配置するというアイデアは、慶応大でも採用されている戦術「ポッド・アタック」の発想に近い。

 また、最初は選手からは「土日しか来ない監督に僕らの何がわかるのか?」、「日本代表やサントリーのラグビーがしたい」など反発の声も少なからずあったという。だが稲葉監督は「アタックやディフェンスの立ち位置だけでなく、点差や天候といった状況に応じて判断してプレーする『ポジショニングラグビー』をしてほしい」と説いた。さらに、選手たちにより考えさせるために、スマートフォンでチャットができるアプリ「チャットワーク」に79人の部員全員を登録、土日以外にもコミュニケーションを密に取ることも忘れなかった。

 選手たちと練習と対話を重ねていく中で、大きかったのは4月末から5月にかけて行われたサニックスワールドユースだったという。慶応は予選プールでオーストラリアのチームに勝利して1位で通過するも、決勝トーナメントで東海大仰星に17対33、東福岡に21対36と連敗。稲葉監督は「選手たちが本気で全国を狙おうという意識に変わった」と感じた。5月17日の関東大会の神奈川県予選決勝では桐蔭学園と29対29と引き分け、確実に射程圏内に捉えた。

試行錯誤の末に「9対9」で判断力を磨く

松岡修造氏の甥、辻雄康。U−20日本代表候補にも選ばれている 【斉藤健仁】

 その後も「チェスや将棋のようにラグビーを考えてほしい。どうやって崩すのか、どうやって崩されているのか。ミーティングや試合、練習で常に判断させながらやってきました」(稲葉監督)。そのための練習としては7対7や8対8を重ねる中で、結局、FW5人とBK4人の9対9に落ち着いた。60m×50mほどでゲームを行うことで「15人対15人だと埋もれてしまう選手がいるが、9対9だと全員が働くことが要求される」(稲葉監督)。同時に戦術やディフェンス、キックを蹴る、蹴らないなども選手たちに任せることで判断力を磨いた。

 FL池貝迅主将は「春の桐蔭戦は同点でしたが、夏にかけて甘さを克服し、一人ひとりがラグビーについて考えて、同じ戦術、判断を共有することができるようになって、だいぶ良いチームになりました」と言えば、元テニスプレイヤーの松岡修造氏の甥にあたる副将LO辻雄康(U−20日本代表候補)も「1年間、ゲーム形式の練習を重ねて、15人だけでなく控えも含めた25人がどこでどういうプレーをするか一つひとつ理解している」とチームとしての成長を実感する。こうした1年間の努力の積み重ねが、稲葉監督就任4年目にして、花園予選決勝で桐蔭学園を破るという結果に結びついたというわけだ。

初戦は沖縄・コザと対戦

「御所実との試合が一つの大きなポイントになる」と語る池貝主将 【斉藤健仁】

 桐蔭学園を破った慶応は、当然ながら、Bシードに選出された。12月30日、山形中央(山形)に快勝したコザ(沖縄)と対戦するが、勝利すれば御所実と対戦することになるだろう。稲葉監督は「抽選会で御所実の竹田寛行先生に慶応と当たりたくないと言われましたが、僕はむしろ早く対戦したかった。いずれにせよ、全国制覇をするには御所実に勝たないといけないですから」と語気を強めた。また池貝主将も「初戦も大事ですが、クレバーな御所実との試合が一つの大きなポイントになる」と感じている。

 Bシードの中でも、ともにAシードに近い存在と前評判の高い両校の対決は順当に行けば、1月1日だ。ルーツ校としての伝統を持つタイガージャージ軍団と、一昨年度準優勝の黒衣軍団、元日決戦が実現すれば両者の駆け引き合戦となる。そして慶応が御所実を倒して勢いに乗れば、1954年度以来となる3度目の優勝も見えてくるはずだ。

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著者プロフィール

斉藤健仁

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。 学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「世界最強のゴールキーパー論」(出版芸術社)、「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)など著書多数。最新刊は「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版/2017年11月刊)。

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