ギジェルモ・リゴンドーのすごさとは!?=米国では敬遠された世界屈指の“技巧派”

船橋真二郎

伝わりづらい“空間支配能力”

「物理的なスピード」×「判断のスピード」で対戦者を置き去りにする空間支配能力のすごさが際立つ 【写真:ロイター/アフロ】

 ボクシングは全17階級に分かれる体重別の競技だが、体重差がないと仮定し、全階級のボクサーを横一線で格付けする「パウンド・フォー・パウンド・ランキング」という考え方がある。アメリカのボクシング専門誌『リング』誌が選出する最新のランキングで、リゴンドーは6位にランクされている。ほかに軽量級のボクサーでトップテン入りしているのは、5位のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)のみだ。

 八重樫東(大橋)との激闘で日本でもさらに浸透したロマゴンのすごさは理屈を抜きにしてもわかりやすいと思うが、リゴンドーのすごさは野球にたとえて言うならファインプレーをファインプレーに見せない守備の名手といったところ。つまりは伝わりづらい。瞬間的な出入りの速さとハンドスピードはわかりやすいと思うが、空間支配能力と表現したくなるような抜群の距離感と、展開を先読みする能力に長けており、相手に先んじて動くから「物理的なスピード」×「判断のスピード」で、対戦者を置き去りにしてしまうというわけだ。

天空を飛翔する蝶のようなボクシング

 2人の識者にも話を聞いた。ボクシング取材歴40年近く、古今内外のボクシングに精通している『ボクシング・マガジン』編集部の宮崎正博氏の表現が素晴らしい。

「リゴンドーのボクシングは天空を飛翔する蝶のようなボクシング。一発当てられるかどうかというレベルで、もしかしたらアレクシス・アルゲリョだって当てられないのではないかと思わせる」

 宮崎氏は「攻防技術は精密機械よりも精密。決してノックアウトパンチャーではないが、一瞬のスキを絶対に見逃さない感性は人間というより動物的」と付け加える。その表現を借りるなら、天空を飛翔する蝶を捕まえることばかりにとらわれていると鋭い蜂の一撃に刺されるということになる。

巧緻な戦略が導く“退屈な試合”

 元日本バンタム級王者で現役引退後、『ボクシング・ビート』(旧『ワールド・ボクシング』)誌に20年以上、コラムを寄稿している尾崎恵一氏はその一撃が相手の動きを封じていると分析する。

「不気味なスナイパーという印象。パンチをピンポイントで的確に当てる能力がずば抜けていると感じる。特に左ストレートが一番。ディフェンスも優れているが、何よりもその左ストレートで恐怖心を植え付け、その上で距離を取るから相手は踏み込みづらくなり、リゴンドーに対して、脅威を与えるパンチが打てなくなる。ドネアもそうだった」

 確かにドネア戦でのリゴンドーは序盤に先制攻撃を仕掛けると、中盤以降はリスクを冒すことなく、ヒット・アンド・ランに徹した。一発当てようとしても、その出端を狙われているからうかつには踏み込めない。相手が出て来ないのなら、リゴンドーも無理には攻めない。こうしてリゴンドーの巧緻な戦略にはまり込み、見合う時間の長い“退屈な試合”は成立する。

弱者は容赦なく仕留める無慈悲さも…

今まで来日したボクサーの中でトップクラスの実力者。大みそかの試合ぶりは日本ファンを満足させることができるのか!? 【船橋真二郎】

 だが、9KO中6試合を3ラウンド以内に終わらせているように、力の差がある相手や明らかに弱っている相手に対しては、顔面でもボディでも容赦なく一撃で仕留める無慈悲さも、リゴンドーは持ち合わせている。天笠との一戦はどうなるだろうか。

「日本のみなさんが私のボクシングを理解し、好きになってくれるなら、日本でファイトし続けたい」

 果たしてリゴンドーのスタイルは受け入れられるのか。

「今まで来日した選手の中では、間違いなくトップクラスのうまさを持っているし、見るだけで幸せという選手」(宮崎氏)

 世界屈指の技巧を目撃し、みなさんに判断してもらいたい。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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