ギジェルモ・リゴンドーのすごさとは!?=米国では敬遠された世界屈指の“技巧派”

船橋真二郎

世界最高レベルの実力者が来日

大みそかに大阪で天笠尚とWBA、WBO統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチを行うギェジェルモ・リゴンドー 【船橋真二郎】

“EL Chacal(ジャッカル)”の異名を持つが、どこかネコ科の猛獣を思わせる。たとえば、樹上に身を潜め、獲物を狙う豹のような。直にその姿を見たとき、そう感じた。12月31日、大阪・大阪ボディメーカーコロシアムで天笠尚(山上/28勝19KO4敗2分)の挑戦を受けるために来日したWBA、WBO統一世界スーパーバンタム級王者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ/14戦全勝9KO)である。

「私にとって、アマガサは最も優れたファイター。なぜなら、わざわざ1階級落としてまで私と戦ってくれるのだから。心から感謝している。アメリカには私と戦おうという相手はいない。その意味で、今まで戦ってきた中で最も尊敬に値する選手だ」

 21日に来日。22日に記者会見。23日に公開練習と公式行事をこなしたリゴンドーは世界的には無名の長身痩躯の東洋太平洋フェザー級王者に対し、繰り返し感謝と敬意を表した。強すぎて挑戦者が名乗りを挙げない、というのは常套句だが現実は異なる。試合がエキサイティングではないという理由で、世界最高レベルのテクニックを備える実力者は本場のプロモーターやテレビ局から敬遠された。だから、これだけの大物の来日はなった。

“キューバの至宝”は五輪2連覇

アテネ五輪ではシドニーに続き連覇。ボクシング大国キューバにあって、史上最高傑作と評された 【写真:ロイター/アフロ】

 エンターテイナーというより勝負に徹するリアリスト。欧米ではボクシングはスウィート・サイエンス(Sweet Sience)と表現されるが、その打たせず打つ“ボクシングの真髄”の体現者。リゴンドーの源流はキューバのアマチュアボクシングにある。1972年のミュンヘン五輪から2012年のロンドン五輪まで、参加した9大会で計34個もの金メダルを獲得するなど、アマチュア大国と呼ばれるキューバにあって史上最高傑作、至宝とも評されるサウスポーは、数々の国際大会で輝かしい実績を残している。五輪はシドニー(00年)、アテネ(04年)と連覇。01年、05年の世界選手権、02年、05年のワールドカップも制した。世界3階級制覇王者でアテネ五輪フライ級金メダリストだったユリオルキス・ガンボア(キューバ)が翌年の世界選手権をフェザー級で戦ったのは、リゴンドーという絶対的存在がバンタム級にいたからと言われる。

 アテネ五輪の時点でリゴンドー24歳。そのままアマチュアでキャリアを続行していれば、史上初となる五輪4連覇も確実だったかもしれない。だが、先に亡命し、プロ転向したアテネ五輪のチームメイト、ガンボアやオドラニエル・ソリス(ヘビー級)、ヤン・バルテレミ(ライトフライ級)にも触発されるように、その才能に見合った新天地をリゴンドーは求めた。

 07年7月、ブラジルで開かれたパンアメリカン大会の最中に敢行した最初の亡命には失敗。母国に強制送還されたキューバの英雄は一転、政府の監視下に置かれた。ボクシングまで奪われ、無為な日々を過ごしたリゴンドーは1年7カ月後の09年2月、再び母国からの脱出を図り、今度は成功。現在も拠点にするマイアミでプロのリングに立ったのは、わずかに3カ月後の09年5月のことだった。

スリルに欠けたドネア戦

10ラウンドこそダウンを喫したが、それ以外は超一流の攻撃力を備えるドネアを封じ込めたリゴンドー。しかし、そのリスクを冒さない戦い方は不評を買った 【写真:ロイター/アフロ】

 それから1年半後の10年11月、プロ7戦目で元WBA世界スーパーバンタム級王者のリカルド・コルドバ(パナマ)との決定戦を制し、同級暫定タイトルを獲得。ブランクをものともせず、暫定とはいえ、短期間のうちにプロの頂点に立った事実にリゴンドーの実力は証明された。12年1月には正規王者のリコ・ラモス(アメリカ)を6ラウンドKOに下し、正規王者に昇格。

 13年4月に迎えたWBO王者で後の5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)との軽量級頂上対決が、良くも悪くもリゴンドーの評価を決定づけることになる。10ラウンドにクリンチの離れ際の一瞬のスキを突かれ、ダウンを喫したが大勢に影響はなし。フルラウンドにわたり、超一流の攻撃力を備えるドネアを封じ込め、思うように手を出させなかったことこそ、リゴンドーのすごさであり、真骨頂なのだが、注目を集めた分、能力を高く評価される一方で、スリルに欠けると不評も買った。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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