内山高志の価値を再確認する大みそか=ファンが望むV9戦圧勝からの海外へ

船橋真二郎

破格の強打と高い技術を兼備

2014年度大みそかにイスラエル・ペレスとの9度目の防衛戦に臨むWBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志 【スポーツナビ】

 いよいよ真打ちの登場である。昨年の大みそか以来、内山高志(ワタナベ/21勝17KO1分)が丸1年ぶりにリングに帰ってくる。“日本のエース”は長らく長谷川穂積(真正)が背負ってきた称号だが、現在の日本ボクシング界で、最もその冠を受け継ぐにふさわしいボクサーが内山だ。破格の強打と高いテクニックを兼備したWBA世界スーパーフェザー級王者は、2010年1月の戴冠戦から8度の防衛を含め、世界戦8勝7KO1分(偶然のバッティングで3ラウンド負傷引き分け)の戦績を誇る。12月31日に東京・大田区総合体育館で迎える9度目の防衛戦に勝利すれば、長谷川の10度に次いで国内の世界タイトル連続防衛記録の3位タイとなる。だが、記録より何よりファンが待ち望んでいるのが海外のビッグネームとの対戦である。

「もっと上のステージに立つためにも、圧倒的な強さで勝たなきゃいけないと思っています」
 かねてから「スーパーフェザー級で最強を証明したい」と話してきた内山も目の前のイスラエル・ペレス(アルゼンチン/27勝16KO2敗1分)との防衛戦に向けて、力強く決意を語った。ここに来て、11月22日に3度目の防衛を果たしたWBC王者の三浦隆司(帝拳)との統一戦の可能性が再浮上してきた。内山も「今やれば面白くなると思う」と進境著しい国内の対抗王者の存在を認め、前向きなコメントを残しているが、本音は3度目の防衛戦で圧勝(8ラウンド終了TKO)している三浦との再戦より海外進出だろう。

世界に通用する可能性を秘めた王者

内山と対戦するのは、2000年のシドニー五輪に出場し、アマチュア経験も豊富なペレス 【船橋真二郎】

 内山が対戦を熱望し、アメリカで次代のスター候補と目されている前WBO王者で2階級制覇王者マイキー・ガルシア(アメリカ/34戦全勝28KO)はベルトを返上して、階級を上げてしまった。現在、内山がターゲットとして口に出すのがユリオルキス・ガンボア(キューバ/24勝17KO1敗)だ。アテネ五輪フライ級金メダリストで、すべてWBA暫定王座ながらフェザー級からライト級まで3階級を制しているガンボアは6月、大躍進中のWBO世界ライト級王者テレンス・クロフォード(アメリカ)との全勝対決に9ラウンドKOで敗れ、ベストウェートと言われるスーパーフェザー級での王座返り咲きを狙っているところである。

 今春には、アメリカ・トップランク社のボブ・アラムプロモーターが非公式ながらガルシアの対戦候補に内山の名前を挙げたこともあった。だが、これは興行を放映するHBOが前向きでなかったとも言われ、またガルシアとトップランクの間にビジネス面のトラブルが生じたこともあり、立ち消えとなった。さまざまな思惑や事情が絡み合う交渉事だけに、ことはそう簡単ではないが、35歳になった内山に残された時間は限られている。プロモーターである渡辺均・ワタナベジム会長が望んでいるのは連続防衛記録の更新のようだが、今はそんな数字だけにとらわれるべき時代ではない。世界的な潮流は、ベルトすらも飛び越え、誰に勝ったかで評価と価値が定まる傾向にある。軽量級に人材がひしめく日本にあって、世界的にも層の厚いスーパーフェザー級でこれほどの可能性を秘めた世界王者が出現するのは、果たして何年後になるのだろうか。もし内山をこのまま海外に送り出せなかったら、内山本人だけにとどまらず、後々、悔いを残すことになるのではないか。

今までと硬さ、衝撃が違う右拳

昨年大みそかの金子大樹戦以来の一戦となる内山だが「大丈夫です」とブランクでの不安を一掃 【花田裕次郎】

 その前にまずはペレス戦である。内山にとっては過去最長のブランクとなるが、ホルヘ・ソリス(メキシコ)との4度目の防衛戦の前も「11カ月空いてますし、同じような経験をしているので大丈夫です」と問題なしを強調する。逆に三浦戦後に手術した右拳の状態が長い休養期間を経て回復し「まだ全開ではないですが、8割、9割くらいで打てるんじゃないですか」と表情も明るい。日頃からミットで内山のパンチを受けている佐々木修平トレーナーも「(右拳を)しっかり握り込んで打てるようになったので、去年までとパンチの硬さが違うし、衝撃も違う」と証言する。

 強い右を打ち込めるようになったことで何より大きいのは、気兼ねなく試合を組み立てられるようになること。ここ3年間は右を見せパンチに左フックや左アッパーで仕留めるなど、左だけを軸に展開を考えなければならなかったが「前よりもいろいろと考えながら試合でやりたいことができると思いますし、試合に臨む気持ちが楽ですね」と内山は言う。

かみ合う相手に存分な強さを発揮

9度目の防衛戦に圧勝し、ファンからも望まれる海外でのビッグマッチが実現なるか!? 【スポーツナビ】

 クリスマスの夕刻に成田空港に降り立ったペレスは、翌26日に都内のワタナベジムで練習を公開。2000年のシドニー五輪に出場し、アマチュア経験も豊富な35歳は会見で強気のコメントを繰り返した。「ウチヤマはとてもパワフルで力強いボクサーだと思うが、私は状況に応じてクレバーに戦うボクサーでパンチ力もある。ウチヤマはテクニックやディフェンス面に難があるから、その点を念頭に試合を組み立てる」と言い放ったペレスは「私はこのチャンスをウチヤマよりも優れたボクサーたちと戦いながら、ずっと待っていた。タイトルは必ずアルゼンチンに持ち帰る」と宣言した。プロデビューから14年の間にケガやプロモーターとのトラブルで何度も長期ブランクをつくり、引退を考えた時期もあったとペレスは告白したが「世界王者になる夢を叶えたかったから」と苦難を乗り越え、ようやく掴んだ悲願の世界初挑戦の舞台に強い覚悟で臨んでくることは間違いない。

 公開練習を視察した佐々木トレーナーは「バランスがいいですね。パンチは一発一発握り込んで打つ感じで硬そうですが、回転は速くない」と分析した。ペレスの試合映像を見た限りでは、ジャブからじっくりと展開をつくっていくスタイルや距離感が内山と似ている面もあると感じられた。その点については佐々木トレーナーもうなずき、「内山さんとはかみ合うと思う」と話す。だからこそ、両者のクオリティの違いが明確に示されることになるだろう。V8王者に対し、パワーも遜色なく、スキルと戦略で上回っているとペレスは自信満々に語ったが、久々に右拳の故障という足かせが外れた内山の強さとうまさがどれほどのものか、存分に味わわされることになりそうだ。2015年こそは内山を海外へ――。12月31日は“内山高志の価値”を再確認する日になる。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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