どこが勝ってもおかしくない難敵ぞろい 第93回高校サッカー選手権展望<後編>

川端暁彦

前橋育英の鈴木は、昨年のU−17ワールドカップにも出場している注目のボランチだ 【安藤隆人】

 30日に開幕する第93回高校サッカー選手権大会、近年は戦力拮抗(きっこう)の「どこが勝ってもおかしくない」大会が続くなか、今年はどこが勝ち上がるのだろうか。

 スポーツナビでは、前編(関連リンク参照)に続きブロックごとに注目校を紹介し、大会を展望していく。

前橋育英の世界を知る2人に注目

 1・2回戦を味の素フィールド西が丘、駒沢陸上競技場で行うブロックへ目を向けると、夏の総体で4強入りを果たし、Jリーガーを量産し続ける名門校・前橋育英(群馬)の名前が目に止まる。昨年のU−17ワールドカップに出場しているMF鈴木徳真、渡邊凌磨の両選手を擁し、優勝候補の一角に名を連ねる。主将も務める鈴木は、168センチと小柄ながら抜群の機動性能と「球拾い能力」を持つボランチ。セカンドボールの落下点を先読みして回収する能力は抜きん出ているが、これは注目しておかないと気付けないスキルなので、ぜひ注目してほしい。一方、渡邊は特に注目してなくても自然とプレーが目に焼き付くゴールハンター。観衆の度肝を抜くような一発を見せる、まさにエースだ。この二人以外にもMF坂元達裕など攻撃陣の駒は豊富で、悲願の初優勝を狙う。

 その前橋育英に初戦で立ちはだかるのは、夏の総体でも意欲的なサッカーで関係者の間で密かに話題だった初芝橋本(和歌山)。守備範囲の広い大会屈指のGK立川小太郎に加え、永見皓平、西岡伸の両センターバックも能力が高い。中盤の指揮官役を務めるMF渡辺淳揮を中心に前橋育英の中盤に拮抗できれば、FW末吉塁ら攻撃陣の能力も高いだけに、優勝候補を下した勢いのままに躍進することも期待できる。この対決は2回戦のベストカードに推せる。

 このブロックではDF山中登士郎、渡辺剛を中心に粘り強く一体感のある戦いぶりができる山梨学院(山梨)、李済華監督のラストシーズンとなるパスサッカーの國學院久我山(東京A)、強力FW村田航一が引っ張る日章学園(宮崎)の名前も挙がるが、やはり最注目は前々年度は準優勝、前年度4強と実績を積み上げてきた京都橘(京都)が筆頭候補だろう。過去2大会を経験している絶対的エースのFW中野克哉に加えて、存在感抜群のGK矢田貝壮貴、U−17日本代表にも選ばれたFW岩崎悠人の両1年生が大きく成長。主将のDF林大樹が負傷しているのは不安要素だが、抜群の能力を持つDFハウザー・ケンも台頭しており、致命傷にはならないだろう。大会屈指のGK佐藤隼を擁する第一学院(茨城)を初戦で倒して勢いに乗りたい。

東福岡のブロック対抗馬は静岡学園?

 さらにその隣、つまり東福岡のいるブロックで対抗馬を探すと、堅い守備を見せる徳島市立(徳島)、攻守で強健さの光る草津東(滋賀)の名前が挙がるが、やはり静岡学園(静岡)がその筆頭だろう。大会最上級のドリブラー、FW名古新太郎ら“静学らしさ”を感じさせる選手が多くいる一方で守備の強さも十分。中でも1年生GK山ノ井拓巳は豊かな将来性を感じさせる期待の逸材だ。

 また地の利もある日大藤沢(神奈川)も今年は好選手がそろった。DFながら県予選で得点王に輝いた小野寺健也、左足キッカーのMF西尾隼秀が織り成すセットプレーは破壊力十分。スピード豊かにゴールを狙う大型FW前田マイケル純、技術と運動量を兼備するMF今井裕太、天才的なドリブルを見せるMF田場ディエゴと個性の強い選手がそろい、上位進出の可能性は大いにありそうだ。

前年準Vの星稜は最激戦区を抜け出せるか

 そして前年度準優勝の星稜(石川)がシードされたブロックの候補筆頭は、履正社(大阪)か。前回大会では初出場ながら8強に進出し、そのメンバーの多くが残っている経験面での強みは確か。攻守を束ねるアンカーのMF多田将希、爆発的にゴールへ迫るFW林大地、180センチの長身ながら技巧抜群のMF田中駿汰、決定的な仕事をこなす左ウイングのFW牧野寛太など他校がうらやむ人材がそろった。DF安田拡斗が核となる守備陣が踏ん張れば、栄冠も夢ではないだろう。

 順当に行けば、その履正社と三回戦で当たるのは青森山田(青森)となる。18年連続出場となった歴戦の雄は、長らく三回戦の壁を破れていないが、「今年こそは」の思いが強い。ガッツあふれるDF平松遼太郎、188センチの高さを誇る菊池流帆が中心となる守備陣が粘り強く守って、FW松木駿之介、丹代藍人が待つ前線へつなげたい。攻守の結節点となる左利きのMF山下優人の出来もチームの行方を左右しそうだ。

 もちろん、前年度準優勝の星稜もFW森山泰希、MF平田健人、前川優太、DF鈴木大誠と前回大会を知る選手が縦のラインに残っており、虎視眈々(たんたん)と上位を狙う。ゴールへ向かって突破できるU−16日本代表MF阿部雅志にも注目だ。ただ、星稜の初戦の相手はジュビロ磐田内定のFW岩元颯オリビエ、大会最強クラスのDF上夷克典を擁する鹿児島城西(鹿児島)。いきなりの難敵相手となったが、ここに勝ったところで次も確実に難敵である。重鎮・小嶺忠敏総監督が新たに鍛え抜いた長崎総科大附(長崎)、かつて名古屋グランパスで活躍した岡山哲也監督率いる中京大中京(愛知)、注目のFW定本佳樹を中心に堅守速攻を狙う米子北(鳥取)、そして初出場ながら野性味あふれるFW野村祐一朗と技巧派のMF和田幹大の最強デュオを中心に旋風の予感が漂う昌平(埼玉)と、大会最大の激戦区となっているからだ。

「全国大会に弱いチームなんてない」というのは、かつて強豪校が選手の気持ちを引き締めるために使った言葉であるが、現代高校サッカーにおいては紛れもない真実。全国的にレベルが底上げされて、お世辞ではなく客観的事実として「どこが勝ってもおかしくない」大会となった高校選手権を制して全国4000校の頂点に立つのは、果たしてどの高校だろうか。
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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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