「別格」の東福岡、流通経済大柏に最注目=第93回高校サッカー選手権展望<前編>

川端暁彦

開幕戦に優勝候補最右翼が登場

夏の高校総体を制した東福岡が開幕戦に登場。今大会も最注目校のひとつだ 【写真:アフロスポーツ】

 第93回高校サッカー選手権大会が30日、「駒沢陸上競技場」を舞台に開幕する。

「蹴都移転」と銘打たれた今大会は、高校選手権の歴史と切っても切り離せぬ縁を持つ「国立競技場」が改修工事のために使用不能となり、開会式・開幕戦と準決勝・決勝の会場が変更を迫られることとなった。開会式・開幕戦については同じ東京の駒沢陸上競技場が開催地となった一方、準決勝・決勝については埼玉スタジアム2002へと移転することとなっている。

 指導者やオールドファンの間からは「寂しい」という言葉が漏れる今回の移転。ただ、選手たちはピンと来ていない傾向が強く、抽選会が行われた日に「へー、そうなんですか」なんて気のない言葉も聞かれた。いつもと少し違った雰囲気の大会になることは間違いないが、そこまで大きな影響はないかもしれない。

 そんな「駒沢での開幕戦」には、今大会最注目のチームが登場する。夏の全国高校総体を制した東福岡(福岡)だ。横浜F・マリノスへの加入が決まっているU−18日本代表MF中島賢星、ヴィッセル神戸への加入が決定済みのMF増山朝陽という今大会で1、2を争う注目度を持つ2人を擁するだけでなく、U−17日本代表GK脇野敦至らほかの9つのポジションすべてにハイレベルな選手を配する優勝候補最右翼。技術面だけでなくフィジカル的に秀でた選手が多くそろっているのも特徴的で、各校指導者も「あそこは別格」と太鼓判を押す。

 もっとも、ネームバリューのあるチームがすんなり勝てないのが近年の選手権である。初戦の相手は地元の三鷹(東京B)で、隣のサブグラウンドでは何度試合したか分からないほど。駒沢は庭みたいなものである。開幕戦独特の雰囲気もある中での戦いとなれば、勝算ゼロということはあるまい。しぶとい守備からMF巽健ら攻撃陣の爆発を待ちたいところ。来年4月から学校自体が中高一貫の新体制に生まれ変わるため、現校名で挑むラスト選手権という意味付けもある。開幕戦から、いきなり熱い試合が期待できるだろう。

激戦区・千葉を制した流通経済大柏

 ブロックごとに順に見ていこう。まず流通経済大柏(千葉)の入ったブロックについて。前年度優勝の富山第一を押し退けての出場となった水橋(富山)、小松晃監督を迎えて4年ぶりの出場となる明徳義塾(高知)も注目だが、やはり東福岡と並び称される流通経済大柏が最注目校と言えるだろう。

 全国屈指の激戦区である千葉を制して4年ぶりの出場となったが、その間も常に「出ていれば優勝候補」のポテンシャルは維持し続けていた。今年もFC東京内定のMF小川諒也、多彩な役目をこなすMF久保和己、センス抜群の点取り屋FW高澤優也ら好選手がそろい、スキらしいスキは見当たらない。強さの源泉はBチームが高いモチベーションを維持して練習に励んでいることで、「紅白戦でも勝てる気がしない」(小川)と言わせる選手層の厚さはチームの財産。MF相澤祥太、福井崇志ら「ベンチスタートのスター候補」たちにも注目しておいて損はない。

 その流経大柏と初戦で当たるのは、こちらも選手権ではおなじみの作陽(岡山)。臨機応変に戦うスタイルが特長のチームだけに、流経大柏に対してもDF山下裕司を中心に巧みにいなしながら、スキをうかがう展開に持ち込みたい。天才肌のU−17日本代表MF伊藤涼太郎ら「個」も注目だが、攻守にわたった組織立った動きが「面白い」チームでもある。

 2チームの勝者と当たるのは矢板中央(栃木)と松山北(愛媛)の勝者。チーム一丸で戦う松山北に対し、矢板中央はフィジカルの強さを前面に押し出した武骨なサッカーが特長だ。力強く前線に張るFW関岡亮太、前に飛び出す迫力のあるMF今泉航希、1年生だった昨年からレギュラーを張る185センチの大型DF川上優樹と縦のラインがしっかりしている。また水書祐季、木村将輝の両サイドバックも攻撃に「プラスワン」を付けたせる好選手だ。彼らに加えて、DF星キョーワァン、FW森本ヒマンといった規格外のタレントがおり、大会のダークホース候補と言えるだろう。

曲者ぞろいのブロックを抜け出すのは?

 その隣のブロックに目を移すと、FW坂本和雅を筆頭とする「ドリブラー・パラダイス」聖和学園(宮城)、MF横路翔太、FW俵脩造を中心に堅い守りと機動的な攻めが光る広島皆実(広島)、27度目と今大会最多の出場回数を誇る名門・丸岡(福井)と曲者ぞろいのブロックとなった。

 丸岡と初戦で当たる立正大淞南(島根)も、やはり「曲者」。伝統の縦に速い、そしてしつこい仕掛けと多彩なセットプレーは健在で、エースFW中島隆司、ゴールの匂いをかぐFW井上直輝、最終ラインの軸となる2年生DF饗庭(あいば)瑞生などタレントも豊富だ。

 ならば淞南がこのブロックの候補筆頭かと思われそうだが、尚志(福島)も忘れるべきではないだろう。大会屈指のパワフルFW林純平を軸に、多彩な技術を持つ162センチのMF佐藤凌輔、機動力抜群のダイナモ系MF津田亘介、ダイナミックにパスを散らすMF稲村知大など例年になく質の高い人材がそろった。守備も主将のDF山城廉を中心に粘っこく、いつも謙虚な仲村浩二監督が密かな自信を見せるのも納得の陣容となっている。

 さらにこのブロックには、初出場ながら上位進出のポテンシャルもある秀岳館(熊本)がいる。サガン鳥栖内定のDF笹原脩平は185センチの大型ながら左右両足で器用にフィードをさばく技巧派で、ザスパクサツ群馬内定のFW大岩亮太は突破力と勝負強さを兼ね備える。この攻守二枚看板に加えて、笹原の相棒を務めるフィジカル抜群のDF江藤栄起、技術も確かな大型アンカーの松江祐昌、スピードに加えて技術的な引き出しも多い1年生FW池元馨、出れば試合の流れを一変させるスーパーサブのブラジル人FWヴィットル・カウワン・シルバ・ヘイスなど、まさに多士済々。経験不足は否めないが、大きな可能性を秘めたチームだ。

(後編に続く)
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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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