“黒船”ヒクソン・グレイシーの今――技術と血を受け継ぐ次男クロンへのエール

長谷川亮

柔術の新連盟を立ち上げ

1994年、日本に上陸し、日本総合格闘技界で数々の伝説を作ったヒクソン・グレイシー 【長谷川亮】

 20年――インタビュー冒頭で発せられたこの言葉は、“黒船来襲”と言われ自身が1994年に行った日本初ファイトからの年月を示していたが、いまも目に力をたたえ、現役選手以上に鋭い雰囲気を発する姿を前にすると、とてもそれほど前のこととは思えない。55歳を迎えたヒクソン・グレイシーが現在とこれから、そして20年の時を経て同じ日本で総合デビュー(12月23日「REAL.1」/東京・有明コロシアム)を迎える息子のクロンについて語った。

「今は充実してすごく幸せに過ごしています。新しく立ち上げたプロジェクトであるJJGF(Jiu Jitsu Global Federation)があり、この連盟に力を入れています。55歳になってこれまでのように選手として戦うことはできないし、指導をしていても以前より疲れます。でも自分ができることを考えたらやはり柔術のためになることをしたいし、そのために新しい連盟を作り、柔術にプラスになることをしたいと思い日々を送っています」

 ヒクソンは近況をそんな風に語る。この半年は総合デビューの決まったクロンが練習に力を注げるよう、クロンの道場で代わりに指導を担当することもあったという。また、指導や連盟の仕事以外では趣味のサーフィンに興じ、家族とリラックスして過ごしているとのことだった。

「もうファイターとして戦わない」

現在は柔術の発展に身を尽くすことを役割と考え、現役復帰を否定した 【長谷川亮】

「練習は普通にやっていますが、もうファイターとして戦うことはありません。今は戦うことではなく、新たな連盟で柔術のために働くことが目標であり、自分の道です」

 すでに戦い終えたヒクソンは、柔術のさらなる発展のために身を尽くすことこそ自身の役割であると考えているようだ。

「物事の途中で足を止め、自分はどう感じているのか? 幸せなのか? と自分を見つめ直すことが大切です。幸せではない、何か違っていると感じたら、幸せだと感じる方向へ軌道修正し、幸せの待つ方へ向かっていかなければなりません。毎日決まった仕事だけではなく、幸せの方向へ向かい、自分の手で自分を幸せにすること。そうすることで若さを感じることもできます」

 そんな自身の哲学も語ってくれた。

次男クロンの仕上がりに絶対的自信

「REAL」旗揚げ戦には菊田早苗、宮田和幸ら名だたる総合格闘家が参戦する(写真は10月の概要会見より) 【長谷川亮】

「自分が初めて日本で戦ったのが94年、それからちょうど20年後の2014年にまた息子を連れて日本へ来て、新たな物語が始まります。今はとても興奮した心持ちです」

 現在の心境をエキサイテッドだと語る一方、父親としてはやはり緊張していると話すヒクソンだが、クロンの仕上がりには絶大な自信を持つ。

「私の技術はほぼクロンに受け継がれています。クロンの柔術は途中で止まったりポイントで勝とうとするものではなく、悪い状況であればそこから逃れて極めに行く、最後のゴールは極めて勝つ、それしかない、そういう柔術です。これまでやってきた練習を試合で出せば、必ずいい結果を出せるでしょう。フィジカルも精神も100%、とてもいい状態に仕上がっています」

 数あるMMA(総合格闘技)団体の中から、REALをクロン・デビューの場に選んだことにもヒクソンの思いが反映されている。

「REALは日本の団体で、日本はやはり武道の国で、他の国とはあらゆるものが違います。一般の人のマーシャルアーツの見方が、他の国とは全然違うんです」

「新たな武士道として見てほしい」

自身が日本に上陸して20年後、今度は次男クロンが日本でMMAデビューを果たすことに「非常に幸せ」と語る 【長谷川亮】

 今回も試合直前には自身がそうであったように自然豊かな地でキャンプを張り、最終調整を行ってきたという。

「練習は最後まで続けますが、ケガの恐れもあるので最後はそれほどキツくはやりません。最終部分では自然とコンタクトすることで精神的にアジャストして、いい試合ができるようにして迎えるんです」

 自然からパワーを得る効用をそのように語り、ヒクソンは次の言葉で話を締めくくる。
「自分の戦いから20年後に息子の試合を日本で行うことができ、私は非常に幸せです。クロンの試合を、新たな武士道の道としてみなさんに見てほしいです」

 ヒクソンが日本で築いた不敗伝説、その血と技術を受け継ぐクロンが、伝説も引き継ぐこととなるのか。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント