“黒船”ヒクソン・グレイシーの今――技術と血を受け継ぐ次男クロンへのエール
柔術の新連盟を立ち上げ
1994年、日本に上陸し、日本総合格闘技界で数々の伝説を作ったヒクソン・グレイシー 【長谷川亮】
「今は充実してすごく幸せに過ごしています。新しく立ち上げたプロジェクトであるJJGF(Jiu Jitsu Global Federation)があり、この連盟に力を入れています。55歳になってこれまでのように選手として戦うことはできないし、指導をしていても以前より疲れます。でも自分ができることを考えたらやはり柔術のためになることをしたいし、そのために新しい連盟を作り、柔術にプラスになることをしたいと思い日々を送っています」
ヒクソンは近況をそんな風に語る。この半年は総合デビューの決まったクロンが練習に力を注げるよう、クロンの道場で代わりに指導を担当することもあったという。また、指導や連盟の仕事以外では趣味のサーフィンに興じ、家族とリラックスして過ごしているとのことだった。
「もうファイターとして戦わない」
現在は柔術の発展に身を尽くすことを役割と考え、現役復帰を否定した 【長谷川亮】
すでに戦い終えたヒクソンは、柔術のさらなる発展のために身を尽くすことこそ自身の役割であると考えているようだ。
「物事の途中で足を止め、自分はどう感じているのか? 幸せなのか? と自分を見つめ直すことが大切です。幸せではない、何か違っていると感じたら、幸せだと感じる方向へ軌道修正し、幸せの待つ方へ向かっていかなければなりません。毎日決まった仕事だけではなく、幸せの方向へ向かい、自分の手で自分を幸せにすること。そうすることで若さを感じることもできます」
そんな自身の哲学も語ってくれた。
次男クロンの仕上がりに絶対的自信
「REAL」旗揚げ戦には菊田早苗、宮田和幸ら名だたる総合格闘家が参戦する(写真は10月の概要会見より) 【長谷川亮】
現在の心境をエキサイテッドだと語る一方、父親としてはやはり緊張していると話すヒクソンだが、クロンの仕上がりには絶大な自信を持つ。
「私の技術はほぼクロンに受け継がれています。クロンの柔術は途中で止まったりポイントで勝とうとするものではなく、悪い状況であればそこから逃れて極めに行く、最後のゴールは極めて勝つ、それしかない、そういう柔術です。これまでやってきた練習を試合で出せば、必ずいい結果を出せるでしょう。フィジカルも精神も100%、とてもいい状態に仕上がっています」
数あるMMA(総合格闘技)団体の中から、REALをクロン・デビューの場に選んだことにもヒクソンの思いが反映されている。
「REALは日本の団体で、日本はやはり武道の国で、他の国とはあらゆるものが違います。一般の人のマーシャルアーツの見方が、他の国とは全然違うんです」
「新たな武士道として見てほしい」
自身が日本に上陸して20年後、今度は次男クロンが日本でMMAデビューを果たすことに「非常に幸せ」と語る 【長谷川亮】
「練習は最後まで続けますが、ケガの恐れもあるので最後はそれほどキツくはやりません。最終部分では自然とコンタクトすることで精神的にアジャストして、いい試合ができるようにして迎えるんです」
自然からパワーを得る効用をそのように語り、ヒクソンは次の言葉で話を締めくくる。
「自分の戦いから20年後に息子の試合を日本で行うことができ、私は非常に幸せです。クロンの試合を、新たな武士道の道としてみなさんに見てほしいです」
ヒクソンが日本で築いた不敗伝説、その血と技術を受け継ぐクロンが、伝説も引き継ぐこととなるのか。
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