現役最強メイウェザーは誰と戦うのか!?=ファンが望むパッキャオ戦実現の可能性

杉浦大介

英国の雄がメイウェザー戦に名乗り

現役最強の称号をほしいままにする無敗の王者メイウェザー。次戦の相手は“イギリスの雄”カーンか、6階級制覇のパッキャオか!? 【写真:ロイター/アフロ】

「自分が(フロイド・)メイウェザーと対戦するに相応しいと証明できたように感じている。来年の対戦権を勝ち取れたと信じているよ」
 12月13日、ラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナでデボン・アレキサンダーを大差判定で下した後、アミア・カーンは満面の笑みを見せた。

 元世界スーパーライト級王者のカーンは、この試合でWBC世界ウェルター級シルバー王座というマイナータイトルの初防衛を成し遂げている。しかし、欲しかったのはそんな勲章ではあるまい。

 過去に2階級制覇を果たした難敵アレクサンダーを明白に破ったことで、ウェルター級での実力証明に成功した。本人が語る通り、現役最強の称号を欲しいままにする無敗の5階級制覇王者、フロイド・メイウェザーの次なる対戦相手の有力候補に躍り出たのである。

「カーンの決意が彼の目から伝わって来た。彼はメイウェザー戦を熱望していて、試合前の練習量からもそれが見て取れたよ」
 カーンが所属するゴールデンボーイ・プロモーションズのオスカー・デラホーヤ氏が述べた通り、28歳になったイギリスの雄がアレクサンダー戦で披露したボクシングは見事だった。スピード豊かなジャブとストレートパンチを上手く使い、バランスも良く、集中力が途切れる時間帯はなし。無鉄砲な打ち合いを好むことと打たれ脆さが欠点だったカーンだったが、この夜はこれまでにないほど安定感のある戦いぶりだった。

 3人のジャッジは119−109, 118−110, 120−108と採点する一方的な内容で、カーンにとって“自己最高のパフォーマンス”の声も挙がったほど。この日のようなボクシングを貫ければ、昨今はやや鈍りの見えるメイウェザーにも手を焼かせることができるかもしれない。米英のスターが激突する一戦は、華やかな大イベントになることだろう。

パッキャオ戦は“究極のカード”

ボクシングファンが心底望むパッキャオvsメイウェザー戦。パッキャオは「ファンのために戦う」と、“世紀の一戦”への熱意が報道されている 【写真:ロイター/アフロ】

 もっとも、ボクシングファンが心底から望んでいるのは、メイウェザー対カーン戦ではない。メイウェザー対パッキャオの頂上決戦こそが、依然として現在のボクシング界における“究極のカード”であることに変わりはない。

 史上に残るディフェンスマスターであるメイウェザーと、野性味あふれる攻撃で6階級制覇を成し遂げたフィリピン出身のパッキャオ。余りにも対照的な2人の対戦は、絶えず実現が待望されながら、“幻の一戦”であり続けて来た。

 しかし、ここに来て少々風向きが変わる気配もある。
「ファンが望んでいる試合を実現させるときが来た」
 11月23日にマカオでクリス・アルジェリから6度のダウンを奪って判定勝ちした後、パッキャオはそう語ってメイウェザー戦に意欲を見せた。一方のメイウェザーも12月12日にShowtime局のインタビューに応えた際、「準備はできているよ。(来年)5月2日にメイウェザー対パッキャオ戦を実現させようじゃないか」と宣言して話題を呼んだ。

 メイウェザーは37歳、パッキャオは36歳を迎え、近年はパフォーマンスの質とともに、興行成績も停滞気味。メイウェザーと独占契約を結ぶShowtimeは過去4戦中3戦で赤字を出し、パッキャオ対アルジェリ戦のPPV売り上げも30万件程度と不振に終わったと言われる(注/全盛期のパッキャオ戦はコンスタントに100万件以上を売った)。そんな状況下で、ビジネス面で確実に成功するカードはやはりメイウェザー対パッキャオの直接対決以外にない。

交渉を難航させるファイトマネー

カーンは現地時間13日に難敵アレキサンダーに自己最高のパフォーマンスと言われるほどの出来で大差判定勝ち。メイウェザー戦に名乗りを挙げた 【写真:Action Images/アフロ】

 さまざまな情報、報道を総合する限り、両陣営が決戦の挙行に向けた話し合いの場を設けているのは事実のようである。ただ……だからと言って「実現寸前か?」などと喜ぶのは早計過ぎる。12日のテレビインタヴューでは確かにパッキャオに対戦を呼びかけたメイウェザーだが、その後に続いたこんな言葉を聴く限り、やはり交渉は前途多難だと考えざるを得ない。

「以前は4000万ドルの報酬をオファーしたが、パッキャオは受け入れなかった。その後に2度も負けたんだから、同じ額を提示するつもりはないよ」
 パッキャオ戦でのメイウェザーのファイトマネーは1億ドルに近づくと予想され、ならば宿敵にも相応の額をオファーするのが筋ではある。2012年にまさかの連敗を喫したパッキャオだったが、以降にブランドン・リオス、ティム・ブラッドリー、アルジェリといった実力者に3連勝して評価を回復させている。

 しかし、世界的な知名度でメイウェザーをも上回るフィリピンのスーパーヒーローに、メイウェザー側が例えば2000万ドル程度の低額報酬を提示すれば、話はこじれかねない。そして、そんな匂いを嗅ぎ取り、「メイウェザーは今回も本気ではないのでは!?」と疑う関係者が多いのも事実。パッキャオのプロモーターであるボブ・アラムとメイウェザーの不仲も有名なだけに、「そもそもメイウェザー側にやる気はない」と考える米メディアも少なくないのが現実である。

ファンのため――パッキャオの熱意

史上に残るディフェンスマスターであるメイウェザー。パッキャオ戦が実現すれば、ファイトマネーは1億ドルに近づくと予想されている 【写真:ロイター/アフロ】

 パッキャオ戦の行方が依然として微妙なそんな状況で、先週末、メイウェザーにとっての“プランB”と呼べるカーンが自己最高級のパフォーマンスを見せた。メイウェザー、カーンは同じShowtimeの契約選手で、対戦のマッチメークは遥かに容易。欧州で人気のカーンの試合にはイギリスから巨額のテレビマネーが転がり込む上に、実績で劣るカーンに支払う報酬は1000万ドル程度で済む。そういった数々の事情を考えれば、メイウェザーの次戦にはやはりパッキャオではなくカーンが選ばれる可能性の方が高いのだろう。

「メイウェザーは望むだけの額を受け取ればいい。この試合はファンのためであり、ボクシング界のためでもある」
 フィリピンから届いた報道では、メイウェザーの“挑発”にパッキャオはそう反応したという。パッキャオ側の実現への熱意は本物のようで、最終的には業界内で莫大な影響力を誇るメイウェザー本人の意思に委ねられる。

 やはりカーンか、それとも、ついにパッキャオか。カーンを選べば全世界のファンから猛烈に批判されることは必至な状況下で、リスク回避が身上の最強王者もついに重い腰を上げることを期待したいが……。

 現役2大ボクサーが最高級の商品価値を保ったまま対決するには、恐らくは2016年が賞味期限ぎりぎりに違いない。“ボクシング界のスーパーボウル”挙行に向けて、最後のチャンス。依然として楽観的には考えられないが、それでも心の奥底で仄かな期待を抱きながら、世界中のファンがスーパーファイト実現の朗報を待ち望んでいるのである。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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