補強大成功、一人勝ちオリックスの背景 球団が描く常勝軍団への青写真

週刊ベースボールONLINE

今季の年俸総額にも匹敵する補強額

広島での4年で40勝、日本球界を熟知しているバリントンも加入。“万が一の流出”にも備える 【写真=BBM】

 2年連続でリーグトップの防御率を誇った投手陣も、国内FA権を取得した守護神・平野佳寿と3年総額9億円(推定)の大型契約を結び、残留させることに成功。さらに国内FA宣言中で、その動向が不透明なエース・金子千尋の“万が一の流出”にも備える形で、日本での実績も十分なバリントンを獲得。「補強はイメージどおり」という瀬戸山隆三球団本部長の言葉には、異論を挟む余地がない。

 しかも推定額ながら、中島が3年12億円、小谷野が3年3億円、ブランコが2年5億円、バリントンは1年1億5千万円、平野佳3年9億円。金子にも3年15億円を提示しているとみられ、金子が残留したと想定しても、この6人だけで来季の年俸総額は約17億円に上る。日本プロ野球選手会が今年4月28日に発表した支配下選手の年俸調査によると、オリックスは日本人63選手で計20億7610万円。今回の大型補強にかかる金額は、今季の年俸総額にも匹敵するのだ。

オーナー自ら補強にGOサイン

 オリックスグループは、14年3月期決算でも、総資産が9兆円を超える“超お金持ち企業”。ただ、野球にカネを出したくても、なかなか出せないというジレンマを抱え続けてきた。ニューヨークでも株式を上場している世界的企業とあって、多額の投資を行う機関投資家などから、常にその業績を精査されている。優良企業が大半のグループの中で、球団は数少ない赤字事業。日本では「球団を持っている」というステータスが、その赤字を相殺するだけの効果を持っているのだが、投資側からは、何十億円とも言われている赤字を減らせば、配当がさらに増えるのでは……という見解を突きつけられるのだという。そうなると、球団の予算規模にも、必然的に制約をつけざるを得ないのだ。

 それでも今季、久々の優勝争いを展開し、主催公式戦の観客動員170万3734人は前年比18.4%増と、05年の大阪近鉄との球団合併後では最高の数字をマークして、ファンクラブの会員数も、昨年比1.5倍の4万人を数えた。
 11月4日のオーナー報告後の会見でも、宮内義彦オーナーは「(本拠地が)大阪という人口のあるところで、潜在力ははるかに大きい」と分析。勝つことで観客動員増が見込める。これに伴って収入も増えるという『好循環』をさらに拡大するために、オーナーも“金庫を開ける決断”を下したのだ。西名弘明球団社長は、12月6日に行われた阪急・オリックスOB会の席上で「オーナーが『カネは持つ』と言ってくださった」とオーナー自ら、大型補強へのGOサインを出したという内幕を明かしている。

中長期的な戦略で常勝軍団を目指す

球団は中島、小谷野(写真)らの獲得の間に2軍では若手を着実に育成を進めていき、数年先の世代交代に備えたい考えだ 【写真=BBM】

 また、今回の補強には、球団の中長期戦略という一面も見逃せない。中島、小谷野、平野佳はともに3年契約、メジャー志向を持つ糸井も、海外FA権の取得は早くても17年。つまり、主力陣の全盛期をまずは3年と設定。この間に1軍は優勝、継続して優勝争いを展開していくことで、常勝球団としての基礎固めをする。その一方で、2軍では若手を着実に育成、数年先に訪れるであろう世代交代をスムーズに展開していくという青写真だ。

 今秋のドラフト会議でも、一本釣りに成功した1位指名の明治大・山崎福也は、東京六大学通算20勝をマークした左腕で、左の先発候補が2年目の松葉貴大しかいないという現状を補う狙いが明確だが、2位以下の8人中4人は高校生。昨年指名の高校生を合わせた8人の内訳は、投手3人、捕手1人、内野手3人、外野手1人と、将来をにらんだ指名のバランスも取れている。加藤康幸編成部長は、今回の大型補強とドラフト指名を合わせて「4年、5年先をにらんだ補強」と語っている。

 来季、19年ぶりの優勝という近視眼的な目標達成はもちろんだが、同時に将来的な展望を描き、そのプランを着実に進めることも重要になってくる。これまで『けちックス』と揶揄(やゆ)されてきたオリックスのイメージを一気に払しょくするかのような大型補強だが、これも本社と球団が描いた未来図における“予定どおりの一手”に過ぎないようだ。

(文=喜瀬雅則/産経新聞)

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