“チャンスの場”で見た選手の想いと現実 JPFA第2回目トライアウトレポート

宇都宮徹壱

23名しか集まらなかった今年2度目のトライアウト

わずか23名の選手しか集まらなかった、今年2回目のトライアウト 【宇都宮徹壱】

 12月16日、名古屋の瑞穂陸上競技場で、今年2回目となる2014JPFA(日本プロサッカー選手会)トライアウトが開催された。冷たい冬の雨が降り注ぐ中、ピッチ上では新たなプレーの場を求める選手たちが、息を白くしながら黙々とアップに励む姿が見える。2002年からスタートしたトライアウトも、今年で13年目。当初は年2回行われていたが、11年からは年1回となり、今年は4年ぶりに2回の実施となった。第1回は今月3日に千葉のフクダ電子アリーナで開催され、J2とJ3の選手を中心に74名(内GKが8名)参加している。

 第2回となる今回は、シーズン終了前だったJ1の選手、そしてJ1昇格プレーオフやJ1・J2入れ替え戦などに出場して参加できなかった選手を中心にアピールの場を与えることが目的だという。しかしこの日、会場に集まったのは、第1回を大幅に下回る23名。それでいてGKは前回と同じく8名である。主催者側の予想よりもはるかに少ない人数だったため、7対7で行われるはずだったミニゲーム(4分×4回)は6対6に変更。フルコートでの11人対11人のゲーム(20分×4回)では、対戦相手として地元の社会人チームや大学生チームが急きょ呼ばれることとなった。

 20分しか出番がなかった8名のGKに比べると、15名しかいないフィールドプレーヤーは比較的長いプレー時間が与えられることになった。しかし対戦相手がアマチュアとなると、少しばかり勝手が違うようだ。アビスパ福岡、アルビレックス新潟、名古屋グランパス、ジュビロ磐田と渡り歩き、昨年のJ1昇格プレーオフでは徳島ヴォルティスの昇格に大きく貢献した千代反田充は言う。「相手が相手ですし、どう判断してもらえるかは分からない。普通の試合だと思ってやりましたけれど、あんまり持ち味を発揮できませんでしたね」。結局、この日のトライアウトは、開始から2時間半後の13時には終了した。

あくまで現役続行にこだわる山口智

あくまで現役続行にこだわって挑戦を続ける姿勢を示した山口智(右) 【宇都宮徹壱】

 今回のプレーオフで、個人的に注目していたのが、ジェフユナイテッド千葉で契約満了となった山口智であった。おそらくは千葉サポーターのみならず、多くのサッカーファンが彼の動向に注目したのではないか。

 78年生まれの36歳。96年にJリーグ初の「高校生Jリーガー」としてジェフユナイテッド市原(当時)でデビュー。その後、01年にガンバ大阪へ期限付き移籍し(翌年に完全移籍)、05年のリーグ戦初優勝や08年のAFCチャンピオンズリーグ優勝など、G大阪のあらゆるタイトル獲得に貢献した。自身もJリーグベストイレブン3年連続選出(06〜08年)、さらには日本代表にも選出された(09年。キャップ数は2)。

 とはいえ個人的に記憶に残っているのは、J2に降格していた千葉に12年に復帰して以降のキャリアである。この年にスタートしたJ1昇格プレーオフでは、守備のかなめとして3大会連続で出場して、そのつど涙をのんだ。今年のモンテディオ山形戦でも、際立った存在感を見せていただけに(後半17分には惜しいヘディングシュートも放っていた)、その9日後に彼がトライアウトのピッチに立っている姿というのは、いささか奇妙な光景に映った。当人も「プレーオフでへこんで、次の日に(戦力外と)言われてへこんで、落ち込むところまで落ち込みました」と、気持ちの切り替えで苦労したことを明かした上で、もう少し準備期間が欲しかったとも語っている。

「もうちょっと早く(契約満了を)言ってくれれば、こっちも準備はできたと思うんですけれど。プレーオフの前に言われていたとしても、モチベーションが下がることは絶対になかったと言い切れますので、そういう意味でも残念でしたね」

 移籍先に関して「(カテゴリーには)こだわりがある」という山口。だが、引退という選択肢は「まったく考えていない」と言い切る。J1とJ2合わせて国内公式戦564試合(歴代5位)の出場記録を誇る鉄人は、来季は何色のユニホームを身につけて、どのカテゴリーでプレーしているのだろうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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