高校最強チームを築く卒業生の「年輪」 大阪桐蔭・西谷監督に聞く育成法

松倉雄太

今夏、2年ぶり4度目となる全国制覇を果たし胴上げされる大阪桐蔭・西谷監督 【写真は共同】

 大阪桐蔭高校は2008年からわずか7年で春1回、夏3回の甲子園優勝を果たし、黄金時代を築きつつある。さらにOBでは中村剛也、浅村栄斗、森友哉(以上、埼玉西武)、中田翔(北海道日本ハム)、岩田稔、西岡剛、藤浪晋太郎(以上、阪神)ら現在の日本球界を代表する選手を次々に輩出。名実ともに21世紀の高校球界を代表するチームといえる。

 今回、同校野球部を率いる西谷浩一監督にインタビューし、その模様を2回に渡って掲載する。前編では着任から強豪校を作りあげた約20年のあゆみを振り返ってもらい、“西谷式最強チームの作り方”を聞いた。

大学、社会人を見据えた指導

――大阪桐蔭への赴任のきっかけは?

 当時監督だった長澤(和雄)さん(1991年夏の甲子園優勝監督)から声をかけてもらって、2年目から教諭として授業を持たせていただきました。

――野球を指導される上でのモットーは?

 次の世界につながるような野球を勉強してほしいですね。プロというのは人にもよりますが、大学や社会人ですね。「高校野球で終わってほしくない」というのが一番です。技術的にも、高校野球ではなくて上を見てやる。根本的なことで言いますと、人間作りと言いますか、人として成長するということですね。

 最初に感じたのは、高校野球で終わる子が多かったところです。もったいないなと思いました。甲子園というのは、野球を始めたころからみんなが憧れるのですが、大学野球には、高校野球とは違った魅力があります。せっかくやったならば、せめて大学の4年間は野球をやってほしいです。人とのつながりも、また勉強できると思います。

 最初は私も大学を卒業したばかりでしたし、「できたら、大学まで野球をやったらいいんじゃないか?」とみんなに言いました。当時はOBもそれほどいなかったので、寮の食堂に大学野球の記事を貼り、その後は社会人野球の記事を貼るようにもなりました。(当時は)まだ歴史が浅かったので、年輪作りの時だったのかなと思います。

――大学野球の魅力とは?

 高校野球とは違って、試合に出る出ないではなく、人とのつながり(が作れる点)です。4年間補欠でも、学ぶことはたくさんありますね。そういうことを当時の生徒には話しました。

 大学野球の勝ち点とはどんなものかとか、そういうことも話しました。もちろん、社会人野球の話も。子供たちからすれば、「おっさんの野球」としか思っていないところもあったので、社会人の練習を初めて見に連れていった時は「こんなスピード感があるのか」とか、みんな興奮していましたね。

上のレベルの練習、試合を見せて伝える

――指導のポイントは?

 まずは高い志ですね。まだ子供ですから、気持ちの波が技術の波になることが多いです。気持ちの部分で「俺は大学へ行ってやるんだ」とか、具体的な名前が出るくらい目標を持たせてあげることですね。

「僕は高校で野球を終えるので、最後まで頑張る」と言っていた子がいたんですが、それと「次を目指す」とは私は違うと思うんです。次のためにとなれば、例えば夏が終わっても9月10月と(過ごし方が)変わってくる。よく高校生は「引退」という言葉を使うのですが、引退というのはユニホームを脱ぐ時ですね。
 
 むしろ2学期から違う意味で肉体改造しようとか、思い切った練習ができると思うんです。そういう意味での土台作りですね。さらに細かく言えば木のバットですね。2年生の時に、「来年の今ごろ、金属バットを握っている者は誰もいない」ということを話すこともあります。今から木のバットで打てるようにして、かつ金属で打てたら鬼に金棒です。今、金属でしか打てない打ち方でごまかすと、後で全部自分に返ってくる。そういう話をすると、強制しなくてもみんな木で打ちます。木は芯が細い。では、「どうやって打つか?」を考えるようになります。

 今の時期(2年生の冬)の紅白戦を木のバットでやらせてみたりもします。当たり前ですが打てません。近未来はこれ(木)で打たなくてはいけなくなる。ということは、今がいかに楽に打てていたかが分かる。来た球に対して打ったら、金属ならばどこに当たっても(スタンドに)入りますが、木のバットなら打てないだろうとういう話をする。そうすると、選手が変わってきますね。

――投手に関しては?

 例えば高校生の140キロと、社会人の140キロは球が全然違います。その違いを分からせてあげるためには、実際に(社会人野球を)見せるしかないと思います。

(赴任)当時なら、日本生命の杉浦(正則)さんとか土井(善和)さんといったジャパンに入るクラスの投手を近くで見せてもらう。そうすると、「何と捕手の構えた所に(ぴったり)来るんだ」とか、その球のキレ、その割にはスピードが135キロくらい(しか出ていない)ということに驚きます。彼らにしたら145キロくらいの球のように見えるんですね。(その後に)何が違うのかといった話をしたり、社会人が休みの時にグラウンドを借りて練習させてもらって、手伝いにきてもらったりしたこともありました。

 練習を見てから試合に行くと、熱くなる感覚がある。そういったものを高校生に注入できればと思っています。日本生命以外にも、大阪ガスやパナソニック(当時は松下電器)にも恥を忍んでお願いしたことがありました。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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