86連敗で卒業する東大主将の思い 六大学で得た財産を胸に新たな戦いの野に

岡田淳子

未勝利のまま卒業を迎える4年生

今秋のリーグ最終戦にも敗れ、連敗記録が「86」に伸びた東大。4年間、勝ち星に恵まれなかった主将・有井は今、何を思っているのだろうか 【写真は共同】

 東京六大学野球で東京大は今秋シーズンを終えて86連敗と自らの持つ連敗記録を更新、現在の4年生は勝利を知らないで卒業することになってしまった。彼らが入学する前年、2010年秋の早稲田大戦で、当時1年生の鈴木翔太(現JR東日本)が当時早稲田大4年の斎藤佑樹(現北海道日本ハム)に投げ勝ったのが最後の勝利。86連敗と言うが、その間2試合引き分けがあり、88試合連続未勝利になる。

 この春、「連敗脱出なるか?」と東大はマスコミの注目も集めたが、10戦全敗で1987年秋から90年秋に作った70連敗の記録を更新。総失点が98で総得点は7。これで勝つのは難しい。しかし0対10で敗れる試合が10試合あっても、1試合は1対0で勝つことだってあるものだ。それでも、何か大きな力に阻まれたかのように、勝利をつかむことができなかった。

 前回の連敗はちょうどリーグ戦通算199勝から200勝までの間で毎試合テレビの取材が来ていた。それだけに他大学も「200勝献上は御免」と思ったのかもしれない。今回も連敗記録がかかって注目を集めていただけに、相手校が「負けられない」と一層気合が入っていたのだろう。

大型連敗は「たられば」の積み重ね

 今年、東大の主将を務めた有井祐人は、春のオープン戦で膝を痛め開幕戦を欠場。2回戦に代打で出場するも、6割程度治っていた膝を再び痛めしまう。初スタメンは第7週の法政大2回戦。持ち前の思い切りの良いバッティングで、2死満塁からタイムリーツーベースを放ち、3打点を挙げた。もし、フル出場していたら、この春は違う展開になっていたかもしれない。

 そして秋、有井は開幕の慶應大戦でソロ本塁打を放ち、チーム全体も春に比べ打力は確実に上昇。勝利は近いと感じさせる戦いぶりだった。
 第5週、東大は法政大、慶應大に対して4連勝中の立教大と対戦する。立教大はこの秋、2年生エース澤田圭佑を中心に、優勝争いを繰り広げていたが、東大にとってはリーグ戦通算83勝で一番勝利の多い、相性の良い相手だ。

 1回戦は初回に有井が澤田からタイムリーを放ち、この秋で初めて先制するなど、予想に反して好ゲームを展開する。その後逆転されるが、2点を追う8回表、1死二、三塁で打席に有井というチャンスで球場全体が盛り上がる。澤田の投球は3球連続ボール、4球目も低めの球だったがストライク、5球目の同じような球に手を出さざるを得なくなり、ピッチャーゴロ。有井は「今でもあの場面で打てていたら、と考える」と言う。

 今季最後のカードは全く元気のない法政大との対戦。調子が上向きの東大だけに、今度こそ連敗脱出を、と1万人を超える観客が神宮球場に詰め掛けた。

 しかし1回戦は2対19で大敗、2回戦は0対5で完封負け。結局この秋も10戦全敗で終わった。

 たまたま連敗記録更新となってしまったが、それぞれの試合で各選手に「たられば」があったはず。86連敗とはそうした「たられば」の積み重ねだ。

選手、応援団にとっても神宮は晴れ舞台

 神宮球場で土日に試合ができる六大学野球はまさに憧れの場。あらゆる大学スポーツの中でも、「応援席」が設けられて、まとまった声援が選手に向けられる場は、そうはない。つまり応援部にとっても晴れ舞台である。

 しかし、応援部の4年生も、勝利を経験することなく卒業することになった。

 野球部と応援部は仲が良く、交流も深い。試合後、「『俺たちの応援が足りなくてすまない』と彼らに言われ申し訳なく思った」と有井は語る。彼らは本気でそう考えているのだが、実際にプレーするのは野球部員。応援部や応援席で熱心に応援してくれた人々と「東大が勝ったという喜びを共感できなかったのが悲しい」と有井は言った。

1/2ページ

著者プロフィール

東京六大学野球応援紙〜YELL〜発行人。法政大学出身。1992年から早稲田大学出身の姉の協力のもと、同紙の発行を始め、観戦から執筆、編集、発行、配布まで自ら行っている。春秋のリーグ戦はほぼ全試合観戦し、観戦記を中心に執筆。1シーズン6回、もしくは7回発行している。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント