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意外な形で結実した「夢と絶望の90分」
J2・J3漫遊記 J1昇格プレーオフ編

4位の磐田と6位の山形、それぞれの「決戦前夜」

サックスブルーで染まったスタジアム。この日の磐田にはいくつもアドバンテージがあった
サックスブルーで染まったスタジアム。この日の磐田にはいくつもアドバンテージがあった【宇都宮徹壱】

「夢と絶望の90分。」

 今年のJ1昇格プレーオフについて、Jリーグ公式サイトはこのようなキャッチコピーを掲げていた。勝てば晴れてJ1昇格だが、負ければ(対戦相手が上位の場合は引き分けでも)昇格の夢は断たれてしまう。当該チームのサポーターはもちろん、それ以外のサッカーファンからも注目を集めるこのトーナメントも、さまざまなドラマを繰り広げながら今年で3年目を迎えることとなった。


 通常、準決勝2試合と決勝が行われるJ1昇格プレーオフだが、J1ライセンスを持たないギラヴァンツ北九州がプレーオフ圏内の5位に食い込んだため、今回は3チームで残り一つの昇格枠を争うこととなった。まず、4位のジュビロ磐田と6位のモンテディオ山形が11月30日に準決勝を戦い、勝者が12月7日に東京・味の素スタジアムで行われる3位ジェフユナイテッド千葉との決勝に挑むこととなる。


 そんなわけで今回は、ヤマハスタジアムで行われる磐田対山形の準決勝の取材にやって来たわけだが、当連載では過去に両クラブを取り上げており、現地で取材した際にそれぞれの大物サポーターとつながることができた。「決戦前夜」の状況については、彼らに語ってもらった方が良いだろう。最初に登場してもらうのは、山形のサポーターズクラブ「ULTRAS A.C.M.Y」の会長で、初代コールリーダーの藤倉晶である。


「正直、天皇杯決勝進出が目立ってしまって、ごっちゃになってる人が多い印象ですね(苦笑)。サッカーに普段興味がない人ならなおさらですよ。それでも地元紙なんかは、プレーオフの説明などを紙面で大きく取り上げています。山形にとっては初のプレーオフ進出となるので、そのこと自体はうれしいんですけれど、個人的にはホームでの開催権が欲しかった。最終節を勝っていれば(得失点差で磐田を上回って)地元で試合ができたし、NDスタジアムのスタンドをいっぱいにできたんですけどね」


 では、開催権を獲得した磐田の様子はどうなっているのか。続いて登場してもらうのは、クラブを20年以上応援している磐田の大御所サポーターの鈴木稔唯である。


「普段、あまり試合に来ない方から『チケットまだある?』って聞かれることはあります。イベント的な部分で多少の盛り上がりはあるとは思いますが、順位を4位に下げてから1週間後での試合ですからね。木曜日の練習でも、メディアの数は増えていましたが、見学者の数は変わりなかったです。4位になったことですか? いやあ、想定外でしたね。自動昇格に関しては、夏を過ぎた頃には『難しいかな』と思っていましたが……」

アドバンテージの磐田か、「勢い」の山形か

 今年の夏に磐田を取材した際に、すでに鈴木はプレーオフに回ることを見据えながら「少なくとも3位は死守。北九州が6位以内に入れば、決勝1試合だけで済みますからね」と話していた。それだけに、土壇場で千葉に3位の座を譲ってしまったのは痛恨の極みであろう。とはいえ客観的に見れば、磐田が優位に立っていることに変わりはない。ホームで戦えること、引き分けでも決勝に進出できることに加え、日程面でも余裕がある。山形は先週水曜日、大阪・ヤンマースタジアム長居で天皇杯を戦っており、中3日で迎える大一番。その間に磐田は、選手に十分な休息を与えながら1週間かけて準備を進めることができた。


 少なくとも日程面では山形の分が悪い。その点に関して藤倉に問うと、「確かに天皇杯での疲れで、ウチの強みである運動量がどれだけ発揮できるか不安な面はあります。でもその分、こっちには勢いがありますから」という答えが返ってきた。なるほど、「勢い」か──。この準決勝の行方を占う上で、重要なキーワードになりそうな予感がする。


 今季の山形は、第37節に今季初めてプレーオフ圏内の6位に到達すると、以後の5試合を●◯◯◯●と勝ち越して6位でフィニッシュ。3連勝には、アウェーで2−0で勝利した磐田戦も含まれる。さらに、クラブ史上初となる天皇杯決勝進出を果たしたことで、チームの士気はかつてないくらいに上昇していることだろう。一方の磐田は、最後に勝利したのは第36節のホームのFC岐阜戦(3−1)。以降、最終節までの6試合は△△△△●△と勝てない試合が続き、勝ち点を5しか積み上げられなかった。


 このJ1昇格プレーオフの妙味は、「ホームで戦える」とか「引き分けでもよい」といった上位チームの優位性が、実はそれほどアドバンテージにならないところにある。2年前の大会がまさに好例で、「ホームで戦える」京都サンガF.C.も、「引き分けでもよい」千葉も、いずれも大分トリニータ(6位)の勢いに屈することとなった。


 会場のヤマハスタジアムには試合開始2時間前に到着。すでに周囲は両チームのサポーターたちで埋め尽くされていたが、それほど殺伐とした雰囲気はなく、いつものJリーグと変わらぬ風景が広がっていた。とはいえ濃密な90分が終われば、スタジアムはくっきりと明暗が分かれるはずだ。昇格への夢をつなぐのは、果たしてどちらか。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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