攻撃に違いを作り出す本田圭佑の動き あらゆる面で進化を示したウディネーゼ戦

片野道郎

「今シーズン最高」のプレーを見せた本田

ウディネーゼ戦に先発出場し、多くのチャンスを作り出した本田。途中交代でピッチを退く際、サポーターから大きな拍手を浴びた 【Getty Images】

「今日はとても幸せだ。内容的にも、作り出したチャンスの多さでも、今シーズン最高のミランを見せることができたから。今日スタジアムに来た人は全員が心から試合を楽しんでくれたと思う」

 セリエA第13節ウディネーゼ戦(2−0)後のインタビュー、フィリッポ・インザーギ監督はいつものようにポーカーフェイスを保とうと努めつつも、その顔には隠し切れない満足感がにじみ出ていた。
 勝ち点3は、10月19日の第7節ヴェローナ戦(3−1)以来6試合ぶり。ホームでの勝利となると、10月4日のキエーボ戦(2−0)以来ほぼ2カ月ぶりである。しかし、指揮官に満足をもたらしたのは、結果以上に試合の内容、ピッチ上に展開されたサッカーの質の方だろう。

 この日のミランは、90分を通して主導権を握って戦い、相手にほとんどチャンスを与えることなく押し切った。試合が決まったのは後半半ばを過ぎてからだったが、内容的にはむしろ敵陣深くに相手を押し込み、両手に余るほどのチャンスを作り出した前半のそれが圧倒的だった。

 そして、4−3−3の右ウイングとして先発出場した本田圭佑のパフォーマンスも、チームのそれと同様、「今シーズン最高」と言い切れるだけの充実したものだった。とりわけ、積極的な仕掛け、そして質の高いオフ・ザ・ボールの動きで右サイドからのチャンスメークに何度も絡んだ前半のプレーは素晴らしかった。

フィニッシュの形を頭に描いてプレー

 この試合に臨んだミランのチーム状態は、決して万全なものではなかった。DF陣はアレックス、イグナツィオ・アバーテに加えてマティア・デ・シーリオまでが故障離脱、MFもナイジェル・デ・ヨング、サリー・ムンタリが欠場と、中盤から下は満身創痍(そうい)。インザーギ監督は右サイドバック(SB)にダニエレ・ボネーラ、左SBにはこれまでほとんど出場機会がなかったパブロ・アルメロを起用、中盤もアンカーにマイケル・エッシェン、インサイドハーフは右マルコ・ファン・ヒンケル、左ジャコモ・ボナベントゥーラというテクニカルなプレーヤーを並べることを選んだ。前線は右から本田、ジェレミ・メネス、ステファン・エル・シャーラウィという3トップ。前節のダービーで良いところのなかったフェルナンド・トーレスはベンチスタートとなった。

 本田にとって、プレーの主なパートナーとなる右SBはベテランのボネーラ。センターバック(CB)が本職だがSBも無難にこなすユーティリティープレーヤーで、テクニックもフィジカル能力も傑出しているとは言えないが、戦術的判断に優れており、パス、攻め上がりともタイミングの良さを長所にしている。本田と「縦のコンビ」を組むのはこれが初めてとあって、連携が機能するかどうか不安もあったが、結果的に言えばそれは杞憂(きゆう)に終わった。それどころか、アバーテよりもむしろ相性が良いのではないかと思わせたほど。

 例えば、ミランが最初に危険な場面を作った6分のプレー。最終ラインでのサイドチェンジに合わせて本田が自陣の中央から右サイドに流れ、一旦戻るそぶりを見せてから裏に走り込むプルアウェーの動きを見せると、ボネーラはぴったりのタイミングで裏に浮き球のパスを送り込んだ。マークするウディネーゼの左SBマウリツィオ・ドミッツィを振り切ってトップスピードで走り込んだ本田は、ペナルティーエリア手前でこれを左のアウトに引っかけて、内側を並走するメネスにダイレクトで流す。そのままペナルティーエリアに侵入したメネスは、追いついてきたドミッツィとのフィジカルコンタクトで倒れ、チャンスをものにすることはできなかったが、三者の連携はほぼ完璧。アバーテからは、このタイミングで質の高いパスが出てくることはきわめてまれだった。

 この場面でのプレーは、今シーズンの本田の「進化」を象徴的に示すものだった。
 手前に引く動きで足下にボールを要求するのではなく、そこからフェイントを入れて裏に走り込みスペースにパスを引き出すオフ・ザ・ボールの動きは、昨シーズンまではまれにしか見られなかったもの。そして、トップスピードのままダイレクトでメネスにボールを流した後も、そこでスピードを緩めることなく方向転換、マーカーをひきずってゴール前に走り込む。もしメネスが安直に倒れず本田の動きを見てワンツーを返していれば、ゴール正面でフリーになる決定的なチャンスが生まれていたはずだった。

 昨シーズンまでの本田ならおそらく、最初の場面でそのまま手前に引いて足下にパスを受け、そこから前を向いてパスを出そうと(あるいはドリブルで仕掛けようと)していただろう。それは、敵最終ライン手前のスペースでボールを受けて前を向き、そこからスルーパスやミドルシュートで決定的な仕事をしようとイメージする、トップ下的な感覚からくるプレー選択だ。しかし今の本田は、最終ラインの「手前」ではなく「裏」でのプレーをより強く意識し、ビルドアップよりもフィニッシュ、シュートにより直接的につながるプレーをイメージしているように見える。メネスにパスを出した直後、自陣から50メートルを走り込んだ後にもかかわらず、足を止めずにゴール前に飛び込んだのも、フィニッシュの形を完全に頭に描いていたからだろう。メネスは、そこでワンツーを返すよりは自分でシュートを打とうとするタイプだが、それはまた別の話である。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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