黄金時代の終焉、新たに芽生えた期待感 フィギュアGPシリーズ総括

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ファイナル進出を逃したのは14季ぶり

新エース候補の村上は結果を残せずファイナル出場を逃した 【坂本清】

 男子とは対照的に、日本の女子は1人もファイナルに進めなかった。これは2000−01シーズンの東京大会以来、14季ぶりのことである。この結果、11年続いたメダル獲得も自動的に途切れることになった。

 そもそもこうした事態は当初から予想されていた。長年にわたり日本の女子フィギュアをけん引してきた浅田真央(中京大)が今季は休養。鈴木明子は3月の世界選手権後に、安藤美姫は昨年12月の全日本選手権後に現役を退いた。実力、実績ともにトップを行っていた選手たちがこぞって抜けてしまっては、その穴を一気に埋めるのはさすがに難しい。

 新エース候補として期待される村上佳菜子(中京大)はいまだ殻を破れていない。中国杯で3位に入り、2位以上でファイナル進出の可能性もあったNHK杯ではダブルループを3回跳んでしまうという痛恨のミス(編注:「同じ種類の2回転ジャンプは2回まで」というルールに違反)を犯して、4位に沈んだ。「ファイナルに出たいという強い気持ちで」臨んだGPシリーズだったが、結果が伴わない。「14年ぶりに日本の女子選手が出られないということで、胸が痛むというか悔しい気持ちでいっぱいです。ただこれが現実なので、世界選手権に出場できたらそれを挽回したい」と、村上は神妙な面持ちで語った。

 シニア2年目の宮原知子(関大中・高スケート部)もあと一歩届かなかった。スケートカナダで3位に入り、村上と同じくNHK杯では2位以上でファイナル進出の可能性があった。しかし普段はミスが少ない選手として定評のある16歳も、救世主とはならず。3回転+3回転でバランスを崩すなど“らしくない”演技で3位に終わった。「自己ベストを出せていれば、ファイナルに行けたかもしれないので悔しい」と宮原。147センチの小さな体に責任を背負い込んでいた。

未来を悲観する必要はない

ロシア杯で優勝した18歳の本郷。ポイント数でも7位とファイナル進出まであと一歩に迫った 【Getty Images】

 躍進著しいロシアは、昨季に続き4選手がファイナルに駒を進めた。中でも15歳のエレーナ・ラジオノワはスケートアメリカとエリック・ボンパール杯で女子唯一の連勝。GPシリーズで200点台(203.92点)を記録しているのも彼女だけだ。滑るたびに自己ベストを更新しており、優勝に最も近い選手と言える。

 不調から脱したエリザベータ・トゥクタミシェワ、アンナ・ポゴリラヤが健在を示す一方で、ソチ五輪の団体戦金メダル獲得に貢献したユリア・リプニツカヤはやや苦しんでいる。中国杯、エリック・ボンパール杯と2位に入り、ファイナル進出を決めたものの、特にFSでジャンプに安定感を欠き、同胞の後塵を拝した。

 残る2枠は米国勢。ソチ五輪4位のゴールドは、NHK杯で念願のGPシリーズ初制覇。ファイナル進出は初めてだが、「今回(NHK杯)の優勝で自信がついた」と語っており、ロシア勢に割って入る存在となりそうだ。もう1人のアシュリー・ワグナーは過去2大会連続でメダルを獲得しており、経験という面では他の追随を許さない。

 こうした現状を見る限り、しばらくはロシアの優勢が続いていきそうだ。少なくとも日本女子の黄金時代はいったん終焉したと認識すべきだろう。しかし栄枯盛衰は、スポーツの世界では必然のこと。1人の選手、1つのチームが勝ち続けることはまずありえない。むしろ11年連続でメダルを獲得し続けてきた事実を誇りに思うべきだし、未来について期待はすれど、悲観する必要はないと個人的には考える。なぜなら日本にも新たな芽は確実に育ってきているからだ。

 18歳の本郷理華(愛知みずほ大瑞穂高)は、GPシリーズ2戦目となったロシア杯で初優勝。ポイント数でも7位とファイナル進出まであと一歩に迫った。NHK杯に出場した16歳の加藤利緒菜(長尾谷高)は、緊張が取れたFSでノーミスの演技を披露し、5位という成績を残している。宮原にしても2大会ともに表彰台に乗り、年長者としての自覚が芽生えた村上もこのまま黙ってはいないだろう。13歳で全日本ジュニア選手権を制した樋口新葉(日本橋女学館)といった逸材も出てきた。

 浅田のような特別なタレントは、世界的に見てもなかなか生まれるものではない。彼女の不在を嘆くより、若い芽たちが大輪の花を咲かせられるように、適切な方向に導くことが今後は求められていくのではないだろうか。今のロシアがあるのも少し前の低迷期を乗り越えたからこそ。新たな黄金時代が到来する可能性は日本にも十分にあるのだ。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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