“ボンバーレフト”三浦が進化示したKO=再戦となる内山との統一戦へ「自信ある」

船橋真二郎

守から攻、攻から守のスムーズな切り替え

昨年大みそか以来の試合になった三浦だが、6回TKOで勝利。かつて苦杯をなめた内山高志との再戦に意欲を示した 【中原義史】

 WBC世界スーパーフェザー級王者の三浦隆司(帝拳)は22日、横浜国際プールで同級1位のエドガル・プエルタ(メキシコ)を6ラウンド2分15秒TKOで下し、3度目の防衛に成功した。“ボンバーレフト”の異名をとる強打が魅力のサウスポーは試合後、対抗王者であるWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志(ワタナベ)との統一戦に話を向けられると、「やるチャンスがあれば、ぜひやりたい」と意欲を示し、一度は惨敗を喫している内山に対して「実力は競ったところまできている自信はある」と力を込めた。

 昨年の大みそか以来、11カ月ぶりのプエルタ戦は、終わってみれば、三浦のワンサイドと言っていい内容だったが、「100%の力はまだ出せていない」と手放しでは喜ばなかった。14日の公開練習で三浦は「急激に伸びた感じがする」と自身の成長に確かな手応えを口にし、本田明彦会長、浜田剛史代表、葛西裕一トレーナーも「三浦は良くなった」と口を揃えていた。実際、フィリピン人パートナーとの2ラウンドのスパーリングでは、言葉どおりの見違えるような動きを見せた。三浦が言う「100%の力」とは、その飛躍的な成長を遂げた自身の姿だった。

 頭の位置を頻繁に変え、ステップワークでこまめに位置取りを変える。以前まで直線的だった動きに柔軟さが加わり、突っ込みがちだった上体もバランスが良くなったことで改善され、守から攻、攻から守への切り替えがスムーズになった。この間、フィジカルトレーニングや走り込みで徹底的に下半身を鍛え、「土台ができたことで動きもバランスも良くなった」と三浦。海外でのビッグマッチが決まりかけては流れたこともあり、結果としてブランクは長くなったが「去年の3試合が激闘でダメージも溜まっていたので、いいリフレッシュになったし、疲れも抜けて、体のキレも良くなった。期間が空いた分、いろいろ工夫して練習もできた」と、どんな状況でも変わらない向上心が成長を支えた。

今までとは違う力の抜けた左ストレート

守から攻、攻から守への切り替えがスムーズになるなど柔軟性のある動きが目立った三浦 【中原義史】

 随所に成長の跡は見せた三浦だが、やはり練習どおりの力をそのまま本番で出すのは簡単ではない。「前半のラウンドは少し硬かったし、様子を見過ぎた」と振り返ったように、1、2ラウンドは受けに回った。1ラウンド中盤には、クリンチからの離れ際に左フックをテンプルに打ち込んでダウンを奪いはしたが、2ラウンドは挑戦者にポイントを譲った(ジャッジ1名は三浦にポイントを付けたが)。3ラウンドには、ボディ攻めでペースを戻し、葛西トレーナーが「右の使い方もうまくなった」と言うとおりの右フック、右アッパーを、要所にクリーンヒット。ラウンド終了間際には、小刻みに頭を振ってからの左フックを豪快に決めた。

 だが、硬さが取れたのは「4、5ラウンド辺りから」と三浦が言うように、力が抜けたのは4ラウンドの途中だった。レフェリーから2度、ローブローの注意を受け、続けて、故意ではない後頭部への打撃でプエルタに休憩が与えられた。心理的には良くない流れと見えたが「あれで時間が空いて、リラックスできたので逆に良かったかもしれない」と、肩を上下し、首を振って、心身を切り替えた。再開後は柔らかな上体の動きとステップワークが見事に連動し、その動きの中の右フックでプエルタの左目尻を切り裂いた。

 続く5ラウンドには、ボディで着実に弱らせ、迎えた6ラウンド、力の抜けた左ストレートが1発、2発と的確にプエルタを捉えると、立て続けの3発目の左ストレートがカウンターとなり、プエルタの膝が折れる。問答無用と三浦はすかさず連打。左アッパーで再びぐらつかせると、バランスを崩し、体を泳がせたプエルタを追いかけて、右フック、左フックと振り回す。その流れのまま、レフェリーが割って入るのも構わず、最後に右フックを叩きつけたところで試合が終わった。

本田会長「まだ60%。期待するのは次」

中盤以降に硬さが取れたという三浦は力の抜けた左ストレートでプエルタを追い詰めた 【中原義史】

 このリングの上で見せる激しいまでの殺傷本能こそが、三浦の根幹だろう。だが、今から約4年前、この闘争心ごと、三浦は完膚なきまでにたたき伏せられることになる。

 2011年1月、三浦は初めての世界戦で内山に挑み、3ラウンドに得意の左ストレートでダウンを奪った。だが、三浦の見せ場はそこまでだった。以降は右拳を痛め、ほとんど左だけで戦う内山に圧倒され、右目の周囲がみるみる腫れ上がり、ついに視界がシャットアウト。8ラウンド終了後のインターバルに棄権を申し入れる形で試合は終わった。「一度、どん底まで落ちた」と三浦はこの苦い経験を振り返る。そして、今では「そこから這い上がる覚悟を決めた。自分が強くなった原動力」と言い切る。1からやり直すつもりで環境を変え、帝拳ジムで再スタート。昨年4月に2度目の挑戦で世界王者となると、敵地・メキシコで初防衛を果たすなど、実績を残してきた。

 三浦にとって、いまや現役トップの8連続防衛を誇り、実力的にも高い評価を受ける絶対王者の内山との再戦は、何より自身の成長を証明する絶好の相手となるだろう。「次回は100%の力を出せるように調整したい」と語った三浦について本田会長は「はっきり言えば60%しか出てないが、それでも動きはすごく良くなっている。ブランクがあったし、今回で100%出るわけはない。期待するのは次」と評価を与えた。その“次”については「内山くんも三浦も(希望は)統一戦をするか、海外に行くかだと思う」と本田会長。大みそかに9度目の防衛戦を控える内山がいい形で勝利し、統一戦の機運が盛り上がれば、実現の可能性はあるとした。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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