明確にうかがえた本田圭佑の変化 リーダーとしての自覚を押し出した2連戦

元川悦子

指揮官が選んだキャプテンは長谷部

キャプテンは長谷部に譲ったが、本田は11月の2連戦でもリーダーとして絶大な存在感を見せた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ハビエル・アギーレ監督の初陣となった9月のウルグアイ戦から10月のブラジル戦までの4試合、新生・日本代表のキャプテンマークは本田圭佑が巻いてきた。本人は「全員そろってないと言えばそろってないんでね。どんどんメンバーも変わっていくでしょ、この感じだと。それについて今、いろいろ語るのもどうかと思うし、様子見でいいんじゃないですか」と、あくまで一時的なものだという見方を繰り返していた。

 そして今回の11月2連戦で、2010年ワールドカップ・南アフリカ大会時からキャプテンを務める長谷部誠が復帰。どちらが主将に任命されるのかは、メディアを含めて多くの人々の関心事だった。10日に愛知県内で代表合宿がスタートした際、本田は「経験ある選手が戻ってきていて、その状況下でもし監督に言われるんであれば、それはそれでそういう認識を今後していく必要があると思います」と、アギーレ監督の意向によっては引き受ける覚悟を示していた。

 だが、結局のところ指揮官が選んだのは長谷部だった。14日のホンジュラス戦の前日に「キャプテンは長谷部だ。経験豊富で重要な存在であり、ピッチ内外でもチームを安定させる存在だからだ」と明言したのだ。吉田麻也のように「長谷部さんの方がやっぱり規律正しいかなと。誰がやってもそんなに変わらないけど、長谷部さんがやるのは一番しっくりくると思います」と言う選手もいたが、本田にしてみれば少し拍子抜けしたところはあったかもしれない。

 ただ、アギーレ監督がメキシコへ一時帰国していた3日間に、指揮官の意向やチームの方向性を若手に伝えようと努力した本田の姿勢に対しては「若い選手に力を貸してくれたことに敬意を表したい。今回の合宿では、彼と遠藤(保仁)もキャプテンだった」と絶賛。長谷部も「彼は前からリーダーシップを持ってやってくれている。そういう選手がどんどん増えていくことが大事。そういう選手が多くなることを考えて、監督はいろいろな選手にキャプテンを任せているのかもしれない」と、本田のような強いパーソナリティーを持つ選手が増えてくることに期待を示していた。

絶大な存在感を見せたホンジュラス戦

 キャプテン論争がひと段落し、挑んだホンジュラス戦。本田はキャプテンマークという重荷こそ下ろしたものの、これまで以上にピッチ上で絶大な存在感を見せつけた。右インサイドハーフに遠藤、右サイドバックに内田篤人が入り、過去4年間を共に戦ってきた経験豊富な面々と近い距離でプレーしたことで、より自由に動いて攻撃の起点になる。吉田の先制点の場面こそ直接的には絡まなかったが、前半41分に自らの左足でチーム2点目をゲット。長谷部のクリアに反応して一気に縦へ突き進んでGKとの1対1を沈めたこの得点は、イタリアで磨いた前への推進力とフィニッシュの冷静さを見る者に再認識させた。

「圭佑は個人としての意識がすごく高くなっていると感じた。ミランに行って活躍しているし、プレーで引っ張ってくれているなというのはすごく分かりました。あの2点目にしても、よりゴールを意識したプレー、ゴールとかアシストに早く到達できるようなプレーを選択してるなと感じます」と、その一挙手一投足をベンチから見ていた今野泰幸も、本田の変化を如実に感じたという。

 ミランで最近4試合無得点にとどまり、現地メディアからの批判も高まっていた時期だけに、本人は「当然ながらストレスですよ」と本音を吐露していた。ただ、「ストレスに感じると(ゴールが)取れないというのがサッカー。そこは『無心』という表現が適切なのかもしれないけど、そういう状態で入った時に結果が出ているケースが多い。トゥーマッチにならないような精神状態が大事」と自然体を心がける中での、アギーレ体制初得点は、やはりうれしかったに違いない。

 この1点で弾みがついたのか、続く遠藤の3点目、後半の乾貴士の4点目をアシストし、残りの2ゴールも自らお膳立てする活躍ぶり。相手がノープレッシャーでイメージ通りの仕事ができたのも大きかったが、久しぶりに慣れたメンバーと戦ったこともプラスに働き、彼の中で1つのいい感触を取り戻した部分もあったのだろう。

 右インサイドハーフと右FWという新たな関係で力強い一歩を踏み出した遠藤は「前回までとは圭佑のポジションも違いますし、あの位置なら積極的にゴールに向かえる。サイドでは半身でボールを受けられるし、基本的に前を向けることが多いんで、左利きの選手が右サイドにいる大きなメリットがあると思います。彼自身のゴールへの意識はさらに強まっているし、ゴールだけではなくアシストもしっかりしています。チームにとっては非常に重要な選手ですね」とブラジル大会の第2戦・ギリシャ戦以来となった本田との共演を非常にポジティブに捉えていた。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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