滑るWBC球に対応した日本の投手陣 “準備力”が導いた無安打無得点の快挙

中島大輔

効果を発揮する投手陣の変化球

第3戦でMLB打線をノーヒットに抑えた侍ジャパン投手陣。左から西野、牧田、西、則本 【Getty Images Sport】

 日米野球第4戦が始まる前、捕手の嶋基宏(東北楽天)に聞いておきたいことがあった。初戦の完封、第3戦のノーヒットノーランと投手陣の良さを絶妙に引き出している嶋は、好投の要因をどう考えているのか。そう質問すると、「変化球の精度じゃないですか」と即答が返ってきた。

 嶋の答えには、2つの意義が含まれている。ひとつは、日本の投手陣が持ち味を再確認できていることだ。第2戦に先発した金子千尋(オリックス)はチェンジアップ、第3戦で5回をパーフェクトに抑えた則本昂大(楽天)はフォークと、決め球が効果を発揮していた。1、3戦で最終回を締めた西野勇士(千葉ロッテ)については、MLB選抜のジョン・ファレル監督(レッドソックス)が「優れたフォークを投げていた」と評している。

「滑るボール」の有効活用に成功

 そしてもうひとつの意義こそ、侍ジャパンにとって何より大きい収穫だ。矢野燿大バッテリーコーチが語る。

「日本のピッチャーはだいたい、ボールを動かすのがあまり得意ではないけど、今回の日米野球ではWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)球で変化させられている。それはいい準備ができていることが、一番の理由だと思います」

 今大会ではWBCの公式球が使用されているが、日本はこの「滑るボール」への対応に、過去の国際大会では苦しめられてきた。それが今回、複数の投手が打者の手元で動く変化球を投げ、「滑るボール」を有効活用しているのだ。

 前田健太(広島)のツーシームはペナントレースのときより変化が大きく、ジャスティン・モーノー(ロッキーズ)は「シンカー(ツーシーム)はとても走っていた」と語っている。一方、則本は左打者の内角にカットボールを精度よく投げ込み、ファレル監督は「94〜96マイル(約151〜154キロ)のストレートと、最後に微妙に動く球を投げていた。そういう球を投げられると、当然打つのが難しくなる」と脱帽だった。

 なぜ、今回は「滑るボール」に対応できているのだろうか。その理由は日本人のマジメさからくる、“準備力”にある。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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