価値ある1勝も快音聞けぬ中田、柳田 ファレル監督うならせた前田、次は打線だ

田尻耕太郎

大きな意味がある白星発進

敵将も賞賛した前田(左)の投球、さらに菊池(右)も広い守備範囲で固い守りを見せ、小久保監督が目指す野球を体現した一戦になった 【Getty Images】

 野球日本代表「侍ジャパン」の先勝で幕を開けた「2014 SUZUKI 日米野球」。実は歴史的快挙なのだ。

 12日に京セラドームで行われた第1戦は、侍ジャパンが2対0でMLBオールスターに完封勝ち。小久保裕紀監督は「8年前の前回大会で全敗(5敗1分)していたことが、自分の中にすごく意識があった。本当に勝てて良かったです」と、試合後の会見で喜びよりもホッとしたような表情を浮かべた。

 白星発進に大きな意味がある。前回の2006年はもちろん、全日本チームが初戦を勝利したのは6大会前までさかのぼらなければならない(外国人選手も含めたNPBオールスターで臨んだ02年を除く)。それは1996年大会。あの野茂英雄(当時ドジャース)がMLBの一員として凱旋(がいせん)した大会である。

メジャーをうならせた侍投手陣

 10日の壮行試合(福岡ソフトバンク・北海道日本ハム連合チーム戦)に敗れたことで、チーム全体にプレッシャーが重くのしかかった中で臨んだ試合だった。指揮官は「(ソフトバンク・松田宣浩の犠牲フライによる)先制点が大きかった」と前置きしたが、最大の勝因となった先発・前田健太(広島)の好投についてこれ以上ないほど大絶賛した。

「日本のエースである前田健太で初戦を勝つこと。この日米野球において、僕の中で大きなウエイトを占めていました。(好投の要因は)一番は自覚でしょう。シーズンをフル回転で投げてきたが、しっかり準備をして臨んでくれた。日本のエースという自覚の表れだと思います」

 前田は10月11日のクライマックスシリーズ・ファーストステージ第1戦以来の登板だったが、ストレートは初回から150キロを連発。カーブもスライダーもチェンジアップもさえわたった。
 MLBオールスターを率いるファレル監督(レッドソックス)も「ストライクをどんどん投げてくるコントロールがあるし、バラエティー豊かな球種で打者のタイミングを外すことのできるピッチャーだった」とお手上げ状態。MLBオールスターは前日に阪神・巨人連合チーム戦(甲子園)で中越え弾3発を含む8得点と打線が活発だったが、この日は全く快音が聞かれなかった。さらに「前田の後に牧田(和久、埼玉西武)、そして大谷(翔平、日本ハム)とスタイルの違う投手が出てきて難しかった」と、年俸2400万ドル(約27億円)のカノ(マリナーズ)が2番に座る打線を組んだファレル監督もさすがにうなるしかなかった。

 一方の小久保監督は「日本の誇る投手陣あっての勝利だった」とご満悦。さらに守備では二塁手の菊池涼介(広島)が持ち味の広い守備範囲で、一塁寄りのゴロに追いついてアウトにするファインプレー(3回のレイズ・ゾブリストの打席)。また、好調な打撃を買われて不慣れな一塁手を守った山田哲人(東京ヤクルト)も2度の投内連係を無難にこなし、一塁ベンチ前のファウルフライも好ダッシュでアウトにした。無駄な失点を防ぐのは日本野球の伝統的なスタイル。小久保監督の目指す野球を体現した価値ある1勝だった。

はっきり見えている課題

壮行試合、第1戦と快音は響かなかった中田。小久保ジャパンの“ウリ”である4番の一発に期待がかかる 【Getty Images】

 ただ、目標は17年のWBC世界一奪回であり、この日米野球も勝ちに行くと公言している以上、1つの勝利だけで浮かれているわけにはいかない。課題ははっきり見えている。

 小久保ジャパンの“ウリ”である4番・中田翔(日本ハム)のバットからはこの日も快音が聞かれなかった。さらにもう1つ、打線で目玉となりつつあるのが「切り込み隊長的な役割を期待して」1番打者で起用する柳田悠岐(ソフトバンク)だ。現役時代に通算413本塁打を放った小久保監督が引退する際に「後継者」として指名した男。「そのパワーは今でも買っている」と話すが、今シーズンは打率3割1分7厘、15本塁打、33盗塁と長打力以外の部分でも好成績を残したことで、トップバッターに起用することになった。

「柳田が1番に入ることで、2番打者に送りバント以外の選択肢が生まれてくる」と小久保監督。長打が出ればわざわざバントで送らずに済むし、俊足を生かした盗塁やエンドランも可能になる。2番・菊池とのコンビネーションを発揮したいところだったが、初戦は柳田もノーヒットで途中交代に終わった。14日から舞台を東京ドームに移して行われる戦いでは、小久保ジャパンの攻撃面にもぜひ期待したいところだ。
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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