エディージャパンが見せた3年間の真価 マオリ戦にあった明確な意図

斉藤健仁

相手ディフェンスを崩すための工夫

従来の戦術に変化を加えたエディー・ジョーンズHC 【斉藤健仁】

 また「ジョーンズHCが寝ずに考えた」(PR畠山健介/サントリー)という“新しい戦術”も機能する。もちろん日本代表の攻撃のベースはSHの横、SOの横にFWを配置するアタック・シェイプであり、新しいというより変化を加えた形だ。試合開始早々から、相手の早く広がるディフェンスに対して、FWの近場の持ち出しであるピック&ゴーを交えた。攻撃に勢いを与えるだけなく、相手のディフェンスを内に寄せる、またラックに絡ませて人数を減らす目的があった。「今まで自分たちがやってきたアタックと近場の攻撃を加えて良いアタックをしていこうとしました」(PR畠山)

 もう1つは「強いランナーを使う」(FB五郎丸)ことだった。順目に攻め続けるアタック・シェイプを継続しながら、逆サイドのスペースに「ポット・アタック」のように、前もって第3列のFLリーチ マイケル(東芝)やNo.8アナマキ・レレィ・マフィ(NTTコミュニケーションズ)を配置。ほかにもCTBマレ・サウ(ヤマハ発動機)、CTB松島幸太朗(サントリー)ら好ランナーが多いからこそ実現できた戦術と言えよう。

「第3列の選手を逆サイドに立たせて良いバランスに」

リーチ主将が逆サイドから攻撃することで、相手ディフェンスを分散させた 【斉藤健仁】

 実は6月のイタリア戦ではHO堀江、No.8ホラニが自らの判断で同様のことをやっていたが、今回は意図的に行った。試合中、先に逆サイドに立っていたリーチがほかのFWの選手を順目にうながすシーンがしばしば見られた。逆目に強いランナーが立つことで、攻撃のチャンネルが増え、さらに相手のディフェンスも逆目サイドに立たざるを得ない。しかもライン際にWTB以外に強い選手がいるため、ボールリサイクルの精度も上がった。「週明けからしっかり準備することができ、第3列の選手を逆サイドに立たせて良いバランスで攻めることができました」(SH日和佐篤/サントリー)

 また、1戦目において一番の課題だった攻守の切り替えであるが、春からリー・ジョーンズコーチの下でディフェンスを強化してきたことや、月曜日の練習の強度を落として調整したことが功を奏した。試合終了3分前に逆転トライを許したものの、攻撃能力の高い相手に計3トライしか与えなかったことは概ね合格点と言える。

世界ランキングは史上初の9位に

ペナルティートライを奪うなど、日本にとって大きな武器となったスクラム 【斉藤健仁】

 ただ「時には試合がこちらを愛してくれないことがある」とジョーンズHCが表現したように勝てなかったのは正直、悔やまれる。アタック・シェイプが機能し、WTB山田章仁(パナソニック)がトライ、武器となっているスクラムからのペナルティートライとポジティブな面もあった。だが、試合の序盤にPGをあえて狙わずモールに固執したこと、相手選手がシンビン(10分間の一時的退場)中に得点できなかったこと、FB五郎丸のプレースキック成功率が60%(5本中3本成功)だったこと、後半に相手が近場のディフェンスを強化してきたものの、狙い過ぎて反則を重ねたことなどが影響した。

 それでもFB五郎丸が試合後に言った。「誰もが先週の40点差を埋められないと思っていたのではないでしょうか。1戦目が(大敗で)終わり少し迷いが出てくるところでしたが、やってきたことが自信につながった」。改めて進化している姿を、今シーズン、日本での最終の戦いで見せることができた。11月10日付けのIRBの世界ランキングで初めて一桁となる9位に入った「エディージャパン」こと日本代表。これからも来年のW杯での初のベスト8を目指して邁進(まいしん)していく。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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