英国で世界に挑む大竹秀典が歩んできた道=叩き上げボクサーが狙う史上初の快挙
いまだ負けなしの世界王者に挑戦
現地時間11月22日、英国で無敗の王者スコット・クイッグの持つWBA世界スーパーバンタム級タイトルマッチに挑戦する大竹秀典 【スポーツナビ】
大竹が挑む世界王者のスコット・クイッグ(英国)は、29勝22KO2分といまだ負けなしの26歳。今回が5度目の防衛戦で、現在3連続KO防衛中とKO率7割の強打を誇る。スパーリングではパワー対策も兼ね、ジムの後輩で5階級上の日本ウェルター級10位・藤中周作とも手合わせしている。大竹は「ウェートがあるし、パンチは痛いですよ」と言いながら、パワー負けするような様子はない。大竹の持ち味のひとつがフィジカルの強さ。派手さはないが、対戦相手をじわじわと接近戦に巻き込むスタイルで、日本タイトルを4度防衛した。大竹が「体を密着させた距離で嫌がらせたい」と言えば、金子賢司トレーナーも「中間距離で余計なことはせず、くっついたらグイグイ押し込みたい」と言う。大竹のタフネスも生かし、王者を疲れさせた後半勝負で2人の意見は一致する。
夜遊びの帰りに見た福島学のポスター
毎日コツコツと練習を積み重ね、日本王座を4度防衛するなど実績を積んできた大竹 【スポーツナビ】
象徴的なエピソードがある。大竹がまだ地元で「毎週末に仲間と集まって、酒を飲んで。そんな生活をしていた」頃のことだ。その帰り道、たばこと寝酒の缶ビールを買おうとコンビニに寄ったとき、電柱に貼られたポスターが目にとまった。元東洋太平洋・日本スーパーバンタム級王者の福島学の試合を告知するものだった。「紹介文に隣の中学出身とあって。こんなにすごい人が地元にいたのかと、びっくりした」。ボクサーと言えば、「きつい減量に、酒もたばこも全部ダメ。我慢、禁欲のイメージだった」。つまり、当時の大竹とは正反対。仲間と飲み明かした早朝に、こうしてポスターと向かい合っている自分とは、まるで別世界の人と思えた。
「ひたすら自分に挑戦しようと思って」上京
強打のクイッグ対策としてジムの後輩である5階級上の日本ウェルター級10位・藤中周作とのスパーリングを敢行。力負けしないフィジカルの強さが大竹の持ち味でもある 【スポーツナビ】
ジムに勧められて、アマチュアの試合にも出た。「本当は、すごく嫌だったんですけど、嫌なことを避けていては、今までと同じだと」。地元のワンマッチの小さな大会に2度出場し、2度とも勝った。厳しいトレーニングの先の達成感を知った。東京でプロに。そう思い立った。23歳のときに上京。当時はまだ小田急線の車窓から見えた下北沢の金子ジムに飛び込んだ。成功を夢見たわけではない。居心地のいい地元を離れ、もっと厳しい環境に身を置こうと決めたのだ。「ひたすら、自分に挑戦しようと思って」。自分の弱さと向き合うことが大竹の課した目標だった。