本田が担うチームにとって“重要な役割” 自らのクオリティーを犠牲にしたプレー

片野道郎

全試合スタメン出場は本田ただ1人

サンプドリア戦で11試合連続先発出場した本田は、直前にひいていた風邪の影響もあってか後半14分に早々とベンチへ退いた 【写真:ロイター/アフロ】

 サンプドリア戦(2−2)後の記者会見、本田圭佑交代の理由について、フィジカルの問題か、それとも戦術的な問題か、と聞かれたフィリッポ・インザーギ監督は、こう答えた。

「彼はこの2日間風邪と喉の痛みで十分に練習できなかった。それもあってか、少し疲れているように見えた。あの状況で、(フェルナンド・)トーレスを入れて4−4−2にシステムを変えたかったので、本田を下げて(ジャコモ・)ボナヴェントゥーラを(右サイドに)開かせることを選んだ。本田はよくやっている。彼のプレーには満足している。この2日間は残念だった。今日のプレーには少しその影響があったかもしれない」

 先発出場はこれで開幕から11試合連続。この試合でイグナツィオ・アバーテが負傷欠場したため、全試合スタメン出場はこれで本田ただ1人になった。この事実が示しているのは、インザーギ監督は本田を、チームにとって不可欠な存在だと考えているということだ。

 残念ながら、チームの状況そのものは芳しいものではない。この日の引き分けで、ここ4試合の成績は3分け1敗。本田の2得点で快勝した第7節ヴェローナ戦以来、勝ち星から遠ざかっており、3位だった順位も暫定7位、日曜日の結果によっては9位まで下がる可能性がある。開幕からの7試合で4勝を挙げた序盤戦の勢いが失われ、ある種の停滞期に入ってきたという印象は否めない。

 そして、それと歩調を合わせるように、本田が試合の中で決定機に絡み、違いを作り出す場面がここ数試合見られなくなっていることもまた事実だ。

 この試合でも、ボールを持った時に危険な場面を作り出したのは、自陣右サイドでボールを奪ったマティア・デ・シーリオからの縦パスに反応し、ジャメル・メスバとうまく身体を入れ替えて裏に抜け出しドリブルで持ち上がって、ペナルティーエリア右角から並走するジェレミ・メネスに横パスをぴったり合わせた32分のプレー、ただ一度だけだった。

 この場面を除くと、右サイドでパスを受けても厳しいプレッシャーを受けて前を向くことができず、そのまま手堅く後ろに戻す場面が多かった。これは、開幕以来あまり変わっていない部分だ。この日初めて右サイドバック(SB)に回ったデ・シーリオとのコンビネーションもいまひとつ。単独でも、連係からも、右サイドを起点としてフィニッシュにつながる形を作ることはできずに終わった。

インザーギが信頼する理由の一端

GKからのリスタート時には前線でターゲットマンとなり、激しい競り合いを数多く演じている 【Getty Images】

 3トップの一角で攻撃を担うプレーヤーという立場からすれば、ボールに絡んだ場面で違いを作り出せなかったというのは、それ自体がマイナス評価の対象になり得る。60分足らずで途中交代したこともあり、おそらくイタリアの新聞各紙は及第点を下回る評価をつけることだろう。

 しかしそれでは、ミランというチームの戦術的なメカニズムの中で、本田が求められる役割を果たしていないのか、そのパフォーマンスは期待に応えるだけのレベルに達していないのか、ということになると、決してそんなことはないように思われる。むしろ「ボールに絡んだ場面で決定的な違いを作り出す」という“プラスアルファ”以外の部分については、きわめてきっちりとやるべき仕事をこなし、チームに貢献を果たしていると言った方がいいくらいだ。それは、ミランが好調だった序盤戦も、停滞期に入った感がある今も変わっていない。インザーギが絶対的な信頼を置き、スタメンで起用し続けている理由の一端もまた、そこにあるはずだ。

 例えば、GKからのリスタート時に、前線でハイボールを競るという目立たない仕事もそのひとつ。前線のパートナーであるメネス、ステファン・エル・シャーラウィはいずれも軽量級で空中戦はからっきしだ。それではリスタート時には自陣からパスをつないで組み立てればいいようにも思われるが、ミランの最終ラインと中盤には、正確で質の高いパスでリズム良くボールを動かし、スムーズなポゼッションで攻撃を組み立てるだけのクオリティーが欠けている。後方からゲームを作ることができる「司令塔」が不在なのだ。それゆえインザーギは、消極的な選択としてGKからのリスタートではロングボールを選んでおり、前線で最もフィジカルコンタクトが強い本田に、そのターゲット役を委ねている。この試合でも、左センターバック(CB)のダニエレ・ガスタルデッロとの空中戦を、少なくとも10回は演じていた。

 頑強な敵のCBとロングボールを競り合うためには、毎回フルパワーでジャンプすることが必要であり、これは筋肉や関節に大きな負荷をかけるハードな仕事だ。これを担うことは、本田にとっては自らのクオリティーを犠牲にしてチームのために働くことを意味している。にもかかわらず、その仕事を受け入れきっちりこなすプロフェッショナル精神を指揮官が高く評価していることは容易に想像できる。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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