異常事態? 重賞未勝利馬が秋GI4連勝=秋の盾は10年ぶり藤沢和厩舎スピルバーグ
天皇賞・秋5勝は現役1位、歴代でも2位
スピルバーグが天皇賞・秋を制覇! 藤沢和厩舎は10年ぶりの秋の盾となった 【写真:中原義史】
スピルバーグは今回の勝利でJRA通算13戦6勝、重賞は初勝利。1歳上の全兄トーセンラーも昨秋のGIマイルチャンピオンシップを勝っており、これで兄弟そろってのGIウイナーとなった。また、騎乗した北村宏は天皇賞・秋は初勝利、同馬を管理する藤沢和雄調教師は1996年バブルガムフェロー、2002年・03年シンボリクリスエス、04年ゼンノロブロイに続き、同レース5勝目。天皇賞・秋5勝は、現役トレーナーでは単独1位、歴代でも尾形藤吉氏の7勝に続き単独2位の勝利数となる。
なお、勝ち馬から3/4馬身差の2着には戸崎圭太騎乗の2番人気ジェンティルドンナ(牝5=栗東・石坂厩舎)、さらにアタマ差の3着にクリストフ・ルメール騎乗の1番人気イスラボニータ(牡3=美浦・栗田厩舎)が入線。天皇賞・春秋連覇を狙った蛯名正義騎乗の3番人気フェノーメノ(牡5=美浦・戸田厩舎)は14着に敗れた。
北村宏、“外”への決断
進路を早々と外へと持ち出したことが最後の末脚の破壊力につながった 【写真:中原義史】
「この馬の一番いいところは末脚のキレ。これをどうやってレースで出して、どう勝負しようかと考えていました。目の前にはフェノーメノがいたんですが、自分の馬は追い出すのを待つくらいの手応えを見せてくれましたし、坂下から追い出すと馬体がグッと沈んで、これなら!と思えるくらいの伸びでした」
主戦の北村宏が直線の攻防を振り返った。昨年のジャスタウェイでも思ったのだが、このスピルバーグが繰り出した末脚も、今までGIで実績がなかった馬とは信じがたいほどの破壊力。インでつばぜり合いをしていたジェンティルドンナ、イスラボニータのGI馬2頭を軽々と追い抜いていったのである。マークした上がり3ハロン33秒7は、もちろんメンバー最速だ。
ただ、これだけの脚を使えることは、前走の毎日王冠3着が布石としてあった。北村が言う。
「前回は進路がなく、なかなか前に出せなくて馬にもファンに申し訳ないことをしました。でも、負けて言うのも変なんですけど、グッとくる手応えはあったんです」
不完全燃焼で惜敗した前走の二の舞だけは避けたい。だからこそ北村宏は、内枠4番スタートにも関わらず、インの経済コースにこだわることなく、早々と向こう正面からアウトコースへと進路を変更。多少の距離ロスは覚悟の上で、進路を邪魔される確率の低い“外”へと活路を求めたのだ。
「前回は脚を余してしまったので、今回はこの馬の全部を発揮させてあげたかった」
ジョッキーのこの決断が、大きな勝利の要因となった。
いま最も脂が乗っているジョッキー
2年連続の年間100勝も目前、北村宏はいま最も脂が乗っているジョッキーの一人だ 【写真:中原義史】
レース後の武豊が語っていたとおり、インコースはジェンティルドンナ、イスラボニータらが熾烈な叩き合いを展開しており、入り込める隙間はなし。もし、スピルバーグが枠なりにインコースを通っていたとしたら、後方から勝負するタイプだけに、毎日王冠と同じく勝負どころで前方の進路はふさがれてしまい、自慢の末脚をすべて発揮させることは難しかっただろう。これは、北村宏のファインプレーである。
昨年はキャリア初のJRA年間100勝を達成し、今年も11月2日終了時点で全国リーディング5位の98勝と、2年連続の大台は目前。そしてこの天皇賞・秋で、ダンスインザムードで制した06年ヴィクトリアマイル以来8年ぶりのJRA・GI通算2勝目と、北村宏はいま最も脂が乗っているジョッキーの一人と言っていい。
「スピルバーグは新馬の前からいい背中をしているなと感じていて、乗るたびに楽しみになる馬でした。去年復帰してからも少しずつクラスが上がるたびに素質を見せてくれましたし、そうして毎回楽しみにしていた馬でGIにまでたどり着くことができて本当にうれしかったです。また自分のことに関しては、特に何かが急激に変わったというわけではないですが、これまで経験してきたことや、よくしてくれる周りの人たちとの関係の積み重ねではないかなと思いますね」