平川忠亮が浦和の翼を担い続ける理由 気配りの35歳がチームにもたらす安定感

神谷正明

気配りの35歳。平川が浦和の翼を担い続ける理由とは何なのか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 11月が目前に迫り、優勝争いも佳境を迎えつつある。浦和レッズが一歩リードしているとはいえ、楽観できるような差でもない。ここでモノを言うのは勢いかもしれない。だが、「経験」という武器を持つ男たちを忘れてはいないだろうか。週替わりに一つのテーマを複数の筆者が語り合うサイト『J論』では、優勝争いの隠れたキーとなる経験豊富な重鎮たちにフォーカス。ミハイロ・ペトロヴィッチ体制の成立後、着実にメンバーの入れ替えが進んだチームにあり、生え抜きの35歳・平川忠亮は今なお存在感を維持している。

歴代指揮官に続き現監督の信頼もつかむ

 決して派手は選手ではない。だが、常に安定したパフォーマンスを見せ、気が付けばピッチに立っているのが当たり前になっている。平川は“ミシャレッズ(ミシャはペトロヴィッチ監督の愛称)”で必要不可欠な戦力として、今季あらためて存在感を示している。

 浦和のストロングポイントはチーム全体が連動して繰り出す流麗なコンビネーションプレーにあるが、その見事な連係を成立させるための前提となるのが運動量だ。指揮官は常々「走らなければ勝てない」と選手全員に走力を求めている。中でもウイングバック(WB)はチームで最も過酷な運動量が求められるポジションだが、右のワイドを務めるのは元気いっぱいの若手ではない。35歳の平川が定位置を確保している。

 なぜチーム最年長の平川が勢いのある年下の選手たちにポジションを奪われないのか。選手層が薄いわけでは決してない。ペトロヴィッチ監督就任初年の2012年の時から絶えずライバルになり得る能力の高い選手はいたが、常に生存競争をくぐり抜けてきた。攻守のバランスに優れ、パフォーマンスの波も小さく計算が立つのが平川の強みであり、多くの歴代監督から評価されたように、ペトロヴィッチ現監督の信頼も勝ち取った。

地味な男が隠し持つ“秘訣”

平川は絶妙なバランス感覚を武器に、黄金時代から浦和を支えてきた(写真は2004年) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 そして、ミシャレッズのWBに最も求められる肝心の体力勝負でも若手や中堅に劣っていないからこそレギュラーの座を死守できているのだが、そこにはベテランらしいクレバーな所作があった。

「実はうまーく休んでいるんですよ。たとえば逆サイドに注目が集まっている時に呼吸を整えたり、後方でボールを回すときにサイドアタッカーは前線に張り出さなきゃいけないんですけれど、早めに高い位置を取ってパスを待っている間に息をついたり、逆にしばらく後ろでつなぐと感じたときにはジョギングでゆっくり上がっていったり。まあ、バレないようにうまくやっています」

 平川はそう説明して笑ったが、言うほど簡単なことではない。いつ休んでいいのか見極める確かな眼力がなければ、チームに大きな穴を空けることになる。だが、今季の平川が手抜きを感じさせるプレーでチームに迷惑をかけたシーンはまるで記憶にない。もしそのようなことがあれば、ペトロヴィッチ監督が平川にあのポジションを任せ続けるわけもない。チームがピンチになりそうなとき、どんなに疲れていても自慢の快足を飛ばして守備に戻ろうとする。それが平川だ。

 その絶妙なバランス感覚こそ、平川がスターぞろいの浦和黄金時代からずっと生き抜いてこられた要因であり、味方に頼りにされている部分でもある。そばにいてくれると周りも安心できるのだ。右サイドでコンビを組む森脇良太は、「僕がいろんなことを考えなくてもスムーズにプレーできるのでやりやすいです」と感謝する。

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著者プロフィール

1976年東京都出身。スポーツ専門のIT企業でサッカーの種々業務に従事し、ドイツW杯直前の2006年5月にフリーランスとして独立。現在は浦和レッズ、日本代表を継続的に取材しつつ、スポーツ翻訳にも携わる。

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