追い込まれたロイヤルズに策はあるか? 原点回帰で青木に期待する手も……

杉浦大介

マイク・タイソン級投手がロイヤルズ完封

連敗で王手をかけられたロイヤルズ。第6戦からは舞台を再びカンザスシティに移す。本拠地で巻き返しなるか 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 ワールドシリーズ通算4試合で4勝0敗、31イニングを投げて1失点、27奪三振、防御率0.29……。25歳にしてそんな尋常ではない数字を残すジャイアンツのエース、マディソン・バムガーナーの前に、10月26日(日本時間27日、以下はすべて現地時間)のワールドシリーズ第5戦でのロイヤルズはまるで歯が立たなかった。

 散発の4安打、無四球、8三振で、三塁も踏めぬまま。勢いに乗っていたはずの打線は117球で手玉に取られ、シリーズ2勝目を挙げたこのバムガーナーの働きで、ジャイアンツが3勝2敗と世界一に王手をかけた。

「良いピッチャーだから何でも(打ちに)いってしまったところもあるし、良いところに投げていたのもある。良いピッチャーという(意識が)悪い方に働き、悪いイメージで打席に立っていた。ベンチから見ていてそんな感じがしました」

 2003年のジョシュ・ベケット(当時マーリンズ)以来のワールドシリーズでの完封勝利を挙げたバムガーナーを、青木宣親はそう評した。

 全盛期の世界ヘビー級王者マイク・タイソンに対した挑戦者は、ほぼすべて“開始ゴング前に萎縮してしまっていた”と評されたもの。過去のポストシーズン通算でも2.27という優れた防御率を残してきたエースは、ボクシングの怪物王者同様に相手に過剰な意識を及ぼす存在となっているのだろう。

 独特のフォームゆえに左打者は背中からボールが飛んでくるような錯覚を起こし、快適にスイングできない。身長195.6センチと見た目も威圧感があり、制球、球の切れともに抜群。この大型左腕は、今後しばらく“現役最高級のビッグゲーム・ピッチャー”の呼称を欲しいままにしていくに違いない。

青木はベンチ降格、8打数無安打では仕方ない

 この日は守備についただけだった青木が付け加えた「ベンチから見ていて」という言葉に、やり切れない思いもにじんだ。

 指名打者制度のないナ・リーグのルールで行われるサンフランシスコでの第3戦以降、青木はベンチに降格。第3〜5戦での3試合でわずか1打席に終わり、第5戦でも相手のエースに挑む機会はなかった。 

「もちろん、出てチームに貢献したいというのはあるんですけど、ここまで来たらとにかく優勝したい。ベンチで勝つように祈ってましたけど」

 出番がなかった第3戦後には気丈にそう語っていたが、直後には「試合で使われないというのが一番悔しい」という言葉もこぼれ落ちた。ついにたどり着いた野球人生最高の大舞台。第4、5戦と連敗を喫したチームに、シーズン終盤同様にスタメンとして貢献できなかった悔しさは察して余りある。

 もっとも、その戦術が批判されることも多いロイヤルズのネッド・ヨスト監督だが、青木の起用法に関しては納得できるものではある。
 アレックス・ゴードン、ジャロッド・ダイソン、ロレンゾ・ケーンがそろった際のロイヤルズの外野陣はリーグ最高級。投手有利で知られるサンフランシスコのAT&Tパークに適した布陣になる。青木の巧打ももちろん捨て難いが、第1〜2戦ではノーヒットに終わり、第4戦の代打での凡退まで含めて8打数無安打と低迷中では仕方ない。中でも1死二、三塁という好機で迎えた第1戦の3回裏の空振り三振は、今思い返しても痛恨だった。
 
「今日はあの打席。どうにかしたかったなというのがホントの気持ち」

 当てるのがうまい青木なら最悪でも内野ゴロで1点はかえしてくれるという首脳陣、ファンの期待に応えられず、試合後には本人からも反省の言葉が漏れた。この後、さまざまなことが悪い方向に向かっていく。良い当たりも正面を突き、第4戦では無死一塁で併殺打に終わり、青木の立場は徐々に厳しさを増していった印象がある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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