V7山中、KO防衛ストップも際立った底力=IBF? 亀田和毅? 統一戦の可能性は?

船橋真二郎

できればKOで終わりたかったのが本音

連続KO防衛記録はストップした山中だが、3度のダウンを奪い7度目の王座防衛に成功 【中原義史】

 WBC世界バンタム級王者の山中慎介(帝拳)が、試合終了を告げるゴングを聞くのは実に2年半ぶりのことだった。22日に東京・国立代々木競技場第二体育館で行なわれた7度目の防衛戦は、山中が3度のダウンを奪いながらも3−0判定勝ち(114対110、116対108、115対109)。近年では、長谷川穂積(真正)、内山高志(ワタナベ)という実力派王者が迫った具志堅用高氏の日本記録、6連続KO防衛に約35年越しで肩を並べることは、またしても叶わなかった(内山はタイトル獲得から世界戦5連続KO)。
「記録はまったく意識していないが、KOは意識している」と繰り返してきた山中は試合後、「できればKOで終わりたかったのが本音。(記録を)期待されているのもわかっていたし、悔しい部分はある」と吐露したが「かなり自分の左に気をつかっていたと思うし、よく研究していて、うまいこと戦われました」と振り返ったように、元WBC世界スーパーフライ級王者でWBC世界バンタム級1位の挑戦者スリヤン・ソールンビサイ(タイ)は“左”対策を徹底していた。

徹底していた挑戦者の“神の左”対策

スリヤンの徹底した“神の左”対策に序盤は苦戦を強いられるも… 【中原義史】

 序盤は明らかにスリヤンのペースだった。4ラウンド終了時点の公開採点は1人のジャッジが38対38、残りの2人は37対39。いきなりの右を起点に距離を詰め、積極的に仕掛けるスリヤンに決定打こそ許さなかったものの、山中最大の武器である左ストレートはスリヤンの頭の上を通過するか、捉えたと思っても前頭部に当たるかし、十分に威力を発揮することはできなかった。間合いをつぶされただけではない。身長171センチの山中に対し、スリヤンは161センチ。過去の挑戦者で最も背が低い上に、アゴを引き、前傾気味に構えるため「頭しか打ちどころがなかった」という状況に。さらにスリヤンは「最後まで動きを止めずに、ただひとつ(山中の)左だけに気をつけていた」と、絶えず頭の位置を変えて的を絞らせない。「中盤以降に抜け出すのが自分の持ち味」と言うように、もともと序盤を相手との距離の見極めに費やすことが多い山中だが、このままズルズル行ったとしてもおかしくない展開だった。

バランスの改善から生まれた3度のダウン

前戦から改善したバランスの良さから生まれたダウン 【中原義史】

 焦れば焦るほど、深みにはまっていく流れのなか、「スパーリングでもこんなことあったな、と思い出しながら、慌てることなく冷静に戦えた」と山中。一方では「少し単調になってしまった」と反省も口をついたが、決して、一本調子ではなかった。スリヤンの前進に対し、時に右ジャブでけん制し、時に左ボディーアッパーで動きを止め、時に右アッパーで上体を起こし、左ストレートを打ち込むための一瞬のほころびを、粘り強く見出そうとし続けた。見定めた狙いどころは右の打ち終わり。
「(スリヤンの)右はスピードというよりもタイミングが良かったですね。ただ途中から、それしかないとわかったし、4ラウンドの採点を聞いたときくらいには、もう右のタイミングはある程度はつかめてました」
 7ラウンドと8ラウンドのダウンはバックステップで右を外し、スリヤンの上体が流れたところを左ストレートでテンプルを捉え、右アッパーから、さらに左ストレートをフォローしたもの。シュテファーヌ・ジャモエ(ベルギー)との前戦では「一発当てた後のつなぎの部分に課題が出た。バランスが悪く、3発4発とつなげなかった」と話していたが、今回、練習の中で特に手応えを得ていたというバランスの改善が、素早いリターンからのコンビネーションに見られた。スリヤンの圧力に押され、「腰が浮いてしまった」とは言うものの、前戦よりはるかに苦しい状態だったからこそ、バランスの良さは際立った。

7ラウンドのダウン後、じっとしていたら…

7回のダウンではレフェリーから注意を受け痛恨のカウントロス 【中原義史】

 それにしても過去43戦して、KO負けが一度もないというスリヤンのタフネスは驚異的だった。9ラウンドには苦し紛れの投げで減点を取られ、さらに入り際に左ボディーアッパーを打ち込まれてキャンバスにヒザをついたが、最後まで勝負を投げなかった。山中にも被弾はあったが11ラウンドには左ボディーストレートからの左、最終12ラウンドにも打ち終わりを狙ったテンプルへの左から決定機を演出するも、ついに仕留められず。惜しむらくは7ラウンドのダウン後、ニュートラルコーナーに待機し続けず、レフェリーのローレンス・コール(米国)から注意を受け、カウントをロスしてしまったこと。「本能がそうさせてしまった。自分がじっとしていたら10カウントになっていたかもしれないし、これから競った試合を戦う上で気をつけなければいけない。反省してます」と、この試合で唯一、山中が我を忘れた場面だったかもしれない。

バンタム級最強を示すため統一戦を

バンタム級最強を証明するため統一戦に期待が高まる 【中原義史】

 それでも悪い流れのなかでも冷静さを保ち続け、一気に挽回した山中の底力は称賛に価する。何より今後について、リング上から「KOで終われなかったですけど、こういう序盤、厳しい戦いも乗り越えられましたし、できればバンタム級で最強を示すために統一戦をしたい」と語った山中に大きな拍手と歓声で応えた観衆のリアクションがすべてを語っていた。
 その山中の今後について、本田明彦・帝拳ジム会長は「防衛回数を狙っているわけではないし、何しろ、いい相手を見つけたい」と語り、25日にモナコで行なわれるIBF世界バンタム級王座決定戦で来日経験もある目下全勝のホープ、ランディ・カバジェロ(米国)が勝利すれば、「交渉はしやすい」とした。11月1日に米国・シカゴで3度目の防衛戦に臨むWBO王者の亀田和毅については「海外でやる意味はない」と、当然ながら日本ボクシングコミッション(JBC)傘下への復帰が前提となる。いずれにしても、さらに大きな舞台で山中を見たいというのがボクシングファン共通の願いだろう。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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