秋山監督がよみがえらせた大砲・吉村裕基 自信戻り恩返しへ=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

熱血指導でよみがえった大砲

不振に陥っていた吉村(背番号6)をマンツーマン指導でよみがえらせた秋山監督。今季、大事な場面で勝負強さを発揮するバッターとなった 【写真は共同】

 吉村は、秋山監督によってよみがえった選手だ。一昨年の11月、10年間プレーした横浜DeNAベイスターズから放出され、トレードでソフトバンクに移籍してきた。08年には34本塁打をマークするなど、06年から3年連続で20発以上を放ち、若き大砲として大きな期待をかけられたが、10年以降は極度の不振に陥り出番を失っていた。本来ならば野球選手として最も脂の乗る20代後半にして「過去の選手」扱いを受けたのが現実だった。

 だが、秋山監督は吉村の長打力を買い、自らの手で再生に尽力した。移籍入団会見の翌日には秋季キャンプに合流させ、異例ともいえる付きっきりのマンツーマン指導。グラウンドでのフリー打撃が終わると、そのまま室内練習場で打ち込んだ。気づけば3時間半の濃密な時間を過ごした。それが8日間も続いた。

「右肘の使い方や内角球へのヘッドの出し方、右足の軸回転などたくさん教えていただきました。自分が良いと思ったことが悪かったり、逆に悪いと思っていたことが意外と紙一重だったり、たくさんの発見がありました」

 翌春のキャンプでは、同年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)代表だった内川聖一、松田宣浩、本多雄一と同組で練習。その期待がうれしかった。失っていた自信がだんだん戻っていく実感があった。

「ミスターオクトーバー」の活躍で最高の恩返し

 移籍1年目の昨季は不本意な成績(36試合、打率1割9分4厘、5本塁打)に終わり、相当な覚悟を持って臨んだ今シーズン。春先こそ2軍スタートだったが、肝心な終盤戦で大活躍。9月のオリックスとの首位攻防戦、3日と4日には立て続けに決勝打を放ってヒーローになった。そして、CSでは見事「ミスターオクトーバー」となる活躍。秋山監督へ、最高の恩返しができた。

「福岡出身の僕にとって、秋山監督はスーパースターです。監督はいつも適切なアドバイスをしてくれます。もう現役をやめられて10年以上経つのに、まだ自分がまるで打席に立っているかのような感覚で言葉を掛けていただける。本当にスゴイと思います。最初の頃は監督の言われている(アドバイスの)レベルに自分が達していなかったけど、少しずつ理解して実践できるようになってきました」

 プロ12年目で初めて味わう10月の真剣勝負。この大事な戦いの中でのMVP獲得は吉村の野球人生を大きく変えていくかもしれない。次は初めての日本シリーズだ。だが、「自分のできることをやるだけですよ」と拍子抜けするほど冷静な答えが返ってきた。

「ハタチそこそこなら大はしゃぎするかも。もう、僕も30歳ですから(笑)」
 それでも決戦の20日の試合前には「勝てば甲子園。高校球児の気持ちで頑張りますよ」と、なかなか気の利いたコメントを残してくれた。

「もう1回、秋山監督を胴上げだ」

 鷹ナインの心は一つ。25日から阪神と激突する日本シリーズを勝って、日本一の夢を成就するだけ。キーマンはやはり「10月の男」吉村か。秋山ホークスが再び勢いを取り戻した。

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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