「ベストを尽くした」ドネアに戦慄の結末=5階級制覇の名ボクサーのKO敗を考える

杉浦大介

「認めるしかない」と相手を称賛

序盤の動きは決して悪くなかったドネア。2ラウンドには得意の左フックでウォータースをぐらつかせる場面もあったが… 【Getty Images Sport】

 軽量級屈指のスターとして君臨して来たノニト・ドネアが、相手の右フックを浴びて崩れるようにリングに突っ伏した瞬間――。2年前に同じフィリピン出身の先輩王者、マニー・パッキャオがファン・マヌエル・マルケスに失神KOされたシーンが頭を過ったファンは多かったのではないか。

 10月19日、米国ロサンゼルスのスタブハブセンターで行なわれたWBA世界フェザー級王座統一戦、ニコラス・ウォータース対ドネア戦のTKOタイムは6ラウンド2分59秒。ドネアの場合は気を失ったわけではないが、偶然か、運命か、奇しくも2012年12月のマルケス第4戦でのパッキャオとまったく同じ終了タイムでフィリピン人王者は沈んだ。

「ウォータースは素晴らしい選手だ。僕も年齢を重ねたけど、彼のことは認めるしかない。これほどハードに練習したことはないし、ベストは尽くした」
 試合後にドネアはそう語ったが、実際にこの試合序盤の動きは悪くないように見えた。パンチには最近になくスピードがあり、切れもまずまず。第2ラウンドに得意の左フックで一回り大きなウォータースをぐらつかせるシーンもあった。

 第3ラウンドに右アッパーを受けてダウン以降は完全に主導権を握られたが、それでも6ラウンドに致命的な一撃をテンプルにもらうその瞬間まで、徹底抗戦する意地をみせた。しかし……「(相手は)とてもタフだったし、サイズの違いもあって動きが取れなかった」。

 結局、今のドネアにとって、ウォーターズは大き過ぎ、危険過ぎる相手だったのだろう。25戦全勝(21KO)、過去12勝中11勝がKO。他ならぬドネアが「若いころの自分を思い出す」と言うほどのパンチャーと、キャリアのこの時期に出逢うべきではなかった。

2012年に4戦全勝KOで年間MVP

 2007年にIBF世界フライ級王者ビック・ダルチニャンをKOして彗星の如く表舞台に登場して以降、ドネアは米国内で確かな存在感を築いて来た。軽量級離れしたスピードとパワーで名を売り、特に11年にフェルナンド・モンティエルを3ラウンドKOして本格ブレイク。長谷川穂積に4ラウンドでストップ勝ちを飾ったメキシコの難敵をも寄せ付けなかった一戦のインパクトは大きく、以降はメガケーブル局“HBO”の看板選手となった。

 中でも2012年には西岡利晃、ホルヘ・アルセといったビッグネーム相手を含む4試合に全勝全KO。この年は米国内の主要媒体の年間最高選手に選ばれ、ここでドネア株はピークに達した感があった。
「2012年に年間MVPになった時点で、子供のころからの夢を達成してしまった。現時点で新たな夢を見つけることが最も難しい」
 しかし、本人のそんな言葉通り、ここで頂点を極めたことが“終わりの始まり”だったのだとしたら、何とも皮肉としか言いようがない。

 2013年4月には元アマ王者ギレルモ・リゴンドーに完敗してタイトルを失うと、11月にはダルチニアンとの再戦で敗北寸前の大苦戦。今年5月にシンピウェ・ベチェカに5回負傷判定勝ちで史上7人目の5階級制覇を達成したが、その戦いぶりに以前の輝きは見られなくなった。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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