香川がアギーレジャパンにもたらす効果 1試合のみの出場で示した確かな“違い”

元川悦子

香川の存在感があらわになったブラジル戦

ジャマイカ戦の後半はポジション変更により本田(右)とのコンビネーションが見られるようになった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 その香川が離脱したブラジル戦は、左インサイドハーフに代表初スタメンの森岡亮太が入り、右インサイドの柴崎、アンカーの田口泰士と中盤のトライアングルを形成した。しかし森岡にしてみれば、中盤2枚との関係はもちろんのこと、3トップ左の田中順也、左サイドバック・太田宏介と同サイドを担ったのも初めて。そんな戸惑いもプレーの1つ1つに出てしまい、球際で競り負けたり、思うようにリズムを作れなかったりと、攻撃面の輝きは影を潜めた。流動的に動いて攻めを組み立てるブラジル攻撃陣のすさまじい迫力を考えたら、田口の両脇のスペースを埋める守備の仕事も精力的にこなさなければならなかったのだが、それも不十分だった。「フィジカルでも負けている部分が多かったですし、気持ちの部分でももう少し余裕を持てればよかったけれど、無意識におされてしまった」と森岡本人は反省しきり。インターナショナルレベルの経験値の不足を改めて露呈することになってしまった。

 後半からは、その森岡に代わって田中が左インサイドハーフに移動。3トップ左には本田が入り、多少なりとも攻めのリズムは改善された。田中自身が中盤からドリブルで持ち上がって、裏に抜ける岡崎にスルーパスを出した後半10分の決定機をお膳立てするなど見せ場を作ったが、目立った仕事はそれくらい。後半25分にはベンチに下げられてしまう。その後の左インサイドハーフは柴崎、田口が短時間ずつ担ったが、すでに勝負の行方が決まってチームの統率が失われている状態ではテストになり得ない。複数の選手が入れ替わるだけで試合が終わった印象だった。

 このように10月シリーズに出場した同ポジションの面々と比較すると、やはり香川が入った時の落ち着きと安定感は違う。ドルトムント、マンチェスター・ユナイテッドという欧州トップクラブでプレーしてきた男は、厳しい局面でも確実にボールをキープしてリズムを作り、味方を生かしながら自分も前にも出ることができ、ゴールも奪える。前線での決定的な仕事の精度と回数は、やはり現在のインサイドハーフ候補者の中では抜きんでたものがある。ジャマイカ戦終盤には次々とシュートを打っていたが、相手がブラジルだったとしても前線に飛び出していくようなプレーを何度か出せたことだろう。

求められる新境地の開拓

今後の課題は守備のバランスをどう取って行くのか。3トップの両サイドで試される可能性も考えられる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 アギーレ監督率いる新生・日本代表ではお互いの特徴を理解し合えている選手がまだ少ないため、どうしても本田や長友、岡崎らとのコンビネーションに頼ってしまう傾向が強いものの、これから時間をかけていけば新たな連携も生み出せるはず。「戦術練習を2日くらいしかしていないけれど、それにしてはいい出来だった」と武藤も香川との関係性に前向きな感触を手にしていた。香川がこの先、武藤や柴崎ら若手といい関係を築き、誰とやっても多彩な攻めを仕掛けられる懐の深さを身に着けていければ、チームもいい方向に進むに違いない。

 もう1つ課題を挙げるなら、守備のバランスをどう取っていくかという点だ。ドルトムントの香川は中盤でボールを数多く触りながらも、最終的にはペナルティーエリア内で際立った仕事をする選手。ザッケローニ監督時代の日本代表でもそうだった。けれどもアギーレ監督の4−3−3のインサイドハーフに入った場合、どうしてもプレーエリアが低くなりがちだ。日本が押し込めるジャマイカのような相手なら問題ないが、ブラジル、ウルグアイといった強豪と対峙した場合、インサイドハーフは3ボランチとして守備に徹する必要性も出てくる。その状況にどれだけ対応できるのかを香川は真剣に考えていく必要がある。

 今回は1試合のみの出場で、1つのポジションでしかプレーしなかったが、今後は3トップの両サイドで試される可能性もゼロではない。マンチェスター・ユナイテッドで多彩なポジションで使われた経験も駆使して、彼は新たな日本代表で新境地を開拓できるのか。まずは脳しんとうでダメージを受けた体を確実に回復させ、ドイツでキレのあるパフォーマンスを取り戻す努力をしてほしい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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