香川がアギーレジャパンにもたらす効果 1試合のみの出場で示した確かな“違い”

元川悦子

初勝利と惨敗に終わった10月シリーズ

インサイドハーフで起用された香川がアギーレジャパンにもたらす効果とは 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ハビエル・アギーレ新監督就任後、2度目の日本代表シリーズとなった10月2連戦が終わった。

 今回の彼らは新潟で6日から合宿に入り、10日には最初のジャマイカ戦に挑んだ。指揮官はこの試合で本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、細貝萌、森重真人、長友佑都らチームの軸と位置づけられるメンバーをズラリと並べ、戦術・連携面の確認を行うとともに、勝利に強くこだわった。結果的にはオウンゴールの1点のみにとどまり、香川を脳しんとうで欠くアクシデントに直面したものの、1−0の新体制初白星と出足は悪くなかった。

 その後、シンガポールに移動し中3日で行われた14日のブラジル戦は、国内でプレーする新戦力のテストを重視。過去にブラジルと対戦したことのあるのは川島永嗣、岡崎の2人だけという驚くべきスタメンで世界トップレベルに挑んだ。が、試合を通して圧倒的な実力差を突きつけられ、ネイマールの4発に沈む格好となった。アギーレ監督は「われわれの目的は変わっていない。アジアカップに向けた選考だ。こうした逆境の中で選手を見ることができた」と大胆采配から得られた収穫の大きさをあえて強調した。けれども、2失点に絡んでしまった柴崎岳が「並大抵の成長速度では、自分が現役時代のうちにこういうチームには対応できない」と危機感を募らせるなど、選手たちにとってはインパクトの大きすぎる惨敗となった。

左インサイドハーフで出場した香川

前半は攻守のバランスがつかめず守備に追われる場面が目立った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 そんな10月シリーズだが、当初、関心を集めていたのは、2014年ブラジルワールドカップ以来の合流となる香川が新チームに何をもたらすかだった。アギーレ監督は代表メンバー発表会見の席上で「香川は中盤で使いたい」と公言した通り、ジャマイカ戦では左インサイドハーフで起用。アンカーの細貝や右インサイドハーフの柴崎とどのような中盤の連携を構築するのかは、やはり大きな注目点と見られた。

 香川は3シーズンぶりに復帰したボルシア・ドルトムントでは4−2−3−1のトップ下を務めており、細貝と柴崎はそれぞれの所属クラブでダブルボランチの一角に入ることが多い。こうした現状があるだけに、香川は日本代表でもトップ下に近いポジションでプレーするのではないかという見方も根強かった。

 けれども、試合が始まってみると、彼らの形は完全な逆三角形。柴崎と香川に託された攻守のバランスはほぼ一緒で、前半はむしろ柴崎の方がゴール前へ飛び出していく回数が多かった。オウンゴールで先制点を奪ったシーンも、柴崎が本田を追い越して右からシュートを放った跳ね返りがDFに当たりゴールとなる形だった。そんな柴崎に比べると、香川は守備に追われる場面が目立った。

「インサイドハーフのポジションはボールに触れる時間は増えると思いますけど、守備の部分で求められることもたくさんありますし、試合でどこまでできるか……。ただ後ろでさばいているだけのプレーヤーではないし、前線で脅威になるのが自分のよさ。そこだけは失いたくない」と彼自身はいかに前へ出ていくかに思いを巡らせていただけに、4−3−3の戦術を実践することに頭が行ってしまった前半のパフォーマンスには、納得いかない部分も多かっただろう。

 それでも、後半に入って攻守のバランス感覚がつかめてきたのか、香川が高い位置を取る回数が格段に増えた。その原動力となったのが、後半14分の布陣変更だ。岡崎と小林悠が交代し、3トップ右が小林、左が本田、1トップに武藤嘉紀という並びに変わったことで、ザッケローニ体制の4年間、ともに攻撃を組み立ててきた本田、長友とのコンビネーションをいい形で出せるようになったのだ。

 得意のドリブルで左サイドを崩し、武藤にラストパスを送った後半16分のチャンス、酒井高徳のクロスに飛び込んでフリーでシュートを放った後半20分の決定機、長友から本田に渡ったボールをもらい、最終的に左サイドから打ちに行った27分の惜しいチャンスなど、香川が脅威をもたらす場面は前半と比べものにならないほど多かった。

「真司が入ってきてしっかりと起点になれるので、周りは安心して懐に入っていける。得点にはつながらなかったけれど、そこからいい形が何本かあったんじゃないかと思います。真司とはお互いのことを分かっているって意味で、安心してボールを預けられる部分があります」と本田も前向きにコメントしたが、新顔の多い今の日本代表にとって、熟成された彼らのコンビネーションが攻撃面の重要なポイントと言っていい。アギーレ監督も「真司はよかった。チーム全体が指示されたことをしっかりとこなし、努力してくれた」と手応えをつかんだ様子だった。強行日程で後半は動きが落ちたジャマイカ相手で難易度が下がった面があるにしても、香川が新たな役割を極めていくきっかけを手にしたのは、少なからず収穫だったのではないだろうか。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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