V7戦に臨む“神の左”山中慎介の野望=世界戦6連続KO防衛の先に統一戦を視野

船橋真二郎

具志堅さんに並ぶ新たな勲章へ

ナイキ社が特別に作製した“GOD'S LEFT KNOWS”Tシャツを着用して、KO防衛に意欲を見せたWBC世界バンタム級王者・山中 【船橋真二郎】

 22日に東京・代々木第二体育館で7度目の防衛戦に臨むWBC世界バンタム級王者の山中慎介(帝拳)が14日、都内の所属ジムで練習を公開した。

 新たな勲章を手にするかもしれない。山中は現在5連続KO防衛中。今回もKOで勝利すれば、元WBA世界ライトフライ級王者の具志堅用高氏が持つ日本人王者の最多連続KO防衛記録と肩を並べることになる。山中はこれまでと変わらず「記録は意識していない」と繰り返しながらも「『山中の試合はKOで終わる』というイメージがある程度はついてきているでしょうし、その期待に応えられるようなKOを見せたいという気持ちが強い」と語る。対する挑戦者で元WBC世界スーパーフライ級王者のスリヤン・ソールンビサイ(タイ)は43戦(37勝16KO5敗1分)のキャリアで一度もKO負けがない。山中は「簡単ではないことはわかっていますけど、そういう選手をKOするのはいいことじゃないですか」と意欲と自信をのぞかせた。

相手の予想を上回るスピードと威力

 山中はこの日、今回から用具提供などで全面的サポートを受けるナイキ社が特別に作製したTシャツを着用して登場。その前面には“GOD'S LEFT KNOWS”とプリントされている。“神の左”は「自分の代名詞」と自他ともに認める山中の異名。鮮烈なKOシーンを生み出し続けてきた左ストレートの威力を形容したものだ。山中と言えば左。これだけ防衛を重ねれば、対戦相手に警戒されて当然のはずが、なぜ左で倒し続けられるのか。

 何度も繰り返されてきた問いに対し、浜田剛史・帝拳ジム代表はあらためて「警戒している相手の予想を上回るスピードと威力で打ち込まれるから」と簡潔に解説。その左は山中自身が「これが当たれば倒せる」とはっきり自覚したことで一気に開花したと振り返る。筆者の脳裏に残っているのは、山中がまだ日本ランカーだった2009年11月の上谷雄太(井岡)戦と10年3月の森本一春(江坂)戦。続けて1ラウンドで試合を終わらせた左ストレートに山中の覚醒を見た。浜田代表が言う“持って生まれた左”に自信が光を当て、磨きがかけられた絶対的武器を携えた山中はその後、日本王者から世界王者へと駆け上がるのである。

左だけに偏らない幅広い攻め

 コンビを組む大和心トレーナーは「打たれたときに一点を貫かれる感じ」と抜群の決定力を持ちあわせる山中の左の質について説明する。大和トレーナーは今回から、山中用に特注した通常より硬いミットを使用しているが、「一点を針で刺されるような」と表現する痛みは、ミットを変える前とまったく変わらなかったと苦笑いした。その左に対する山中の自信も揺るぎない。
「1戦1戦、進化していると思いますし、今回は特に打ったときのバランスが良くなりました。破壊力? 抜群なんじゃないですか」

 調整は順調そのものに見える。フィリピン・スーパーフライ級王者で元世界ランカーのマルコ・デメシーリョとの3ラウンドのスパーリングでは、軽快な脚さばきと右ジャブからの得意の左ストレート、さらには返しの右フックと、左だけに偏らない幅広い攻めを披露し、好調を印象づけた。3日前の11日に32歳の誕生日を迎えたが「自分はまだ伸びているし、成長を実感している。歳は関係ないということを証明したい」と表情にも充実感がにじむ。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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