フィギュアのルール改正のポイントは? 求められる、より正確で美しい演技

野口美恵

スピンは正確性を厳密化

スピンはレベル4を狙うだけでなく、より明確な姿勢で行う必要が出てきた 【写真:ロイター/アフロ】

 スピンは、「難しさ」の面で非常に細かく分類することになった。

(1)スピンの難度による「V1」「V2」のランク分け

「足換え」スピンで、左右の脚ともに「基本姿勢」を満たしていないと「V1」がマークされ、基礎点が下がる。
 また「足換えなしで、1姿勢の、フライングスピン」に限り、「はっきり分かるジャンプ」「着氷後2回転以内に基本姿勢になり、2回転以上保持」の2条件が満たされないと、「V1」「V2」のマークがつき、基礎点が下がる。

(2)コンビーションスピンの分類

 コンビネーションスピンは、「アップライト」「シット」「キャメル」の基本姿勢の数により、ランクを分ける。基本姿勢2つなら「2p」、3つなら「3p」と記載される。

(1)(2)の改正を受けて、スピンの技術役員による判定は、かなり複雑になった。例えば、「FCCoSp2p3V1」と表記された場合は、「フライングの入りで」「足換え」「コンビネーション」スピンで、「ポジションが2つ」「レベル3」「片方の脚に基本姿勢がない」となる。選手にとっては、これまでのようにレベル4を狙うだけでなく、より明確な姿勢のスピンを行う必要が出てきた。

コレオシークエンスはより自由に

 ジャンプとスピンが厳格化された一方で、コレオシークエンスはより芸術的な表現を求め、内容がかなり自由になった。

 まず「形状が自由」になり、「ステップシークエンスの前に行っても良い」ことに。さらに2回転までのジャンプ、2回転までのスピンを入れて良いことになった。コレオシークエンスの中で、曲の盛り上がりでアクセントとして2回転ジャンプを入れるなど、これまでにはない創造豊かな演技を試すことができる。

 一方で、「コレオシークエンス」がはっきりしていないと「つなぎ」に見えたり、逆に、質の高い「つなぎ」が「コレオシークエンス」に見えたりすることもあり得る。ぜひ「つなぎ」を「コレオシークエンス」と間違えるくらいの、切れ目がない名演技を期待したい。

全体でミスなく、質の高い演技

 今季の改正で、全体としては「ミスのない」「質の高い」演技を求める傾向が強まった。別の視点で見れば、トップ選手の技術レベルが高止まりし、ほぼ互角になっていることの裏返しでもある。「小さなミスを大きく減点」しないと、得点差が出ないのだ。

 ソチ五輪では、「男子は4回転ジャンプ2本」「女子は3回転+3回転の連続ジャンプ」というのがトップグループ入りの目安であり、しかも多くの選手がそのレベルに達していた。となると、その技をいかに質が高く、正確に行ったか、が技術レベルの差になる。

 また今季の改正で意味深いのは、「不正確なジャンプやスピン」について、質のマイナスだけでなく、難しさの基礎点まで引かれるようになったことだ。「ダブル減点」については、これまでISUが回避していたが、今季から実施に踏み切ったということは、「技術要素はより正確に」というISUの方向性を意味する。

 いずれにしても、フィギュアスケートの求めるゴールが変わったということではなく、今までも正確で美しいものを求めてきたのが、さらに厳しくチェックしますよ、という改正である。選手達にとっては、自分の技や演技をもう一度振り返り、よりブラッシュアップすることが求められている。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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