日本代表最大勢力のFC東京 アギーレ監督が評価する4人の魅力とは

飯尾篤史

4人も同時選出されるのは珍しいケース

9月の代表初ゴールで強烈なインパクトを残し「警戒される存在」となった武藤。その状況を逆手に、さらに進化を続けている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ハビエル・アギーレ体制の初陣となったウルグアイ(0−2)、ベネズエラ(2−2)との連戦から1カ月。ジャマイカ戦(10日、新潟)、ブラジル戦(14日、シンガポール)で初勝利を狙う日本代表のメンバーリストには、FC東京の選手が4人も名を連ねていた。代表クラスの選手の多くが戦いの場を欧州に求め、日本代表の半数以上が欧州組で占められる昨今、Jリーグの1チームから4人が同時に選ばれるのは、珍しいケースだ。

 FW武藤嘉紀、MF森重真人、DF太田宏介、GK権田修一。果たして彼らの魅力は、どこにあるのか。

 武藤は今、日本で最も注目されている選手のひとりだろう。慶應義塾大学に在学したまま今季FC東京に加入すると、9月に日本代表に初選出。2試合目の出場となったベネズエラ戦で、左足のミドルシュートをねじ込んでみせた。

 アギーレジャパン初ゴールとなったこの得点は、武藤の魅力に溢れていた。こぼれ球に対する予測と反応、力強いドリブルと加速力、右を見れば本田圭佑がフリーでいるのに、それを囮に使って左に切れ込んでいった意思の強さと決め切る力――。

 岡崎慎司がDFと競り合ったボールが武藤の前にこぼれてきた場面で思い出したのは、FC東京U−15深川時代の監督、右田聡の言葉だ。

「ボールを呼び込む力が突出していた。ボールが武藤に吸い寄せられていくような感じ」

 ボールに触るのが大好きで、パスを要求するのはもちろん、読みや予測にも優れていた。また、ボールが相手に渡れば率先して奪い返しに行ったから、ボールに触れる回数が多かったという。中学時代から武藤は、攻守に優れた選手だったのだ。

武藤はいまだ成長過程

 武藤が攻撃力だけでなく、守備力も高かったことを表すエピソードとして、FC東京U−18時代のサイドバックへのコンバートがある。指導にあたった倉又寿雄監督は、武藤の「走力」「攻撃センス」「守備で生きるフィジカルの強さ」に目をつけていた。

「武藤にはサイドバックの資質があったし、そのほうがプロになれる可能性が高いと考えていた」

 しかし、アタッカーへのこだわりが強かった武藤は「サイドハーフでプレーしたい」と直訴し、プレーで監督を納得させて、希望のポジションをつかみ取っている。

 そんな武藤が、本当の意味で自信を手に入れるのは、慶應義塾大に進学してからだ。

 入部早々レギュラーの座をつかみ、関東大学リーグの得点ランクトップに立っていた1年の夏、左ひざの半月板を損傷し、全治半年以上の大けがを負ってしまう。4年後のプロ入りを誓って進んだ大学で直面したサッカー人生最大の挫折――。それを乗り越えたとき、武藤はプロとしてやっていくための強さを手に入れた。

「もう一度、サッカーができるようになるのか、不安で仕方なかった。でも、絶対にプロになりたかったから、懸命にリハビリして、必死に体を鍛え直しました。あの時期、精神的に強くなれたんじゃないかと思います」

 ベネズエラ戦のゴールは、武藤をスターダムへと押し上げたが、「ノーマーク」から「警戒される存在」に変わったことも意味していた。Jリーグでは、スピードに乗らせまいと、2人がかりでマークされる場面も増えた。だが、その状況が武藤をさらに進化させた。マークを外す動きや、ボールを呼び込むランニングのコース取りに工夫が見られ、プレーの幅を広げている。このひと月間で3ゴールを加え、現在11得点(※第27節終了時)。いまだ成長過程で、伸びしろを多く残しているのも、武藤の魅力だろう。

どの監督にも評価されてきた森重

アギーレ監督の評価がすこぶる高い森重だが、これまで常にどの監督からも高い評価を得てきた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 武藤と同じく9月から引き続き代表に選出されたのが森重だ。スターダムを駆け上がる武藤とは対照的に、森重は選手としての円熟期を迎えている。

「空中戦に強く、フィジカル面での強さもある。ボールを持った際のクオリティーも高い」

 アギーレ監督の評価はすこぶる高いが、森重の能力の高さはこれまでのどの監督にも認められてきた。広島皆実高校から大分トリニータに加入して2年目には、シャムスカ監督に抜てきされ、3バックの中央のポジションを獲得。08年に森重を北京五輪代表に選出した反町康治監督も「モリゲ(森重)のポテンシャルは、世界で通用すると思っていた」と語った。

 10年にFC東京を率いた城福浩監督は前年に助っ人のストライカーが移籍したにもかかわらず、「目指すサッカーを完成させるには、ボールをつなげる質の高いセンターバック(CB)が必要」と、FWではなく、森重の獲得に全力を注いだ。

 もともとボランチだからボール扱いが巧みで、正確なパスを左右に散らす。インターセプトから持ち上がって攻撃に厚みを加え、空中戦にも強い。そんな現代的なCBの数少ない欠点が、精神面の不安定さからくるプレーの波だった。

 誰もが惚れ惚れするプレーを見せる一方で、たまに軽率なミスもしでかしてしまう。12年からFC東京の指揮を執ったポポヴィッチ監督は当初、こんなことを言っていた。

「モリゲは素晴らしい才能の持ち主だが、集中を切らしてしまうことがある。だから、私は厳しく言うんだ」

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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