素晴らしいレース…悲劇が起こるまでは=F1日本GP総括

田口浩次

トップチームのマシンはファンも驚く鋭い走り

荒天の中で行われたF1日本GP決勝。レースは駆け引きが見られ、素晴らしい内容だったが、最後に待っていたのは悲劇だった…… 【写真:ロイター/アフロ】

 過去に多くのドラマを生んできたF1日本GP。今年もまた、ひとつの歴史をF1史に刻んだが、素晴らしいレース内容とともに、物悲しい傷も背負った。

 台風18号が接近する中で始まった2014年日本GPの週末は、当初の予想では土曜日に台風の影響を受けるのではないかと言われていた。しかし、台風は予想よりも速度が遅く、土曜日の朝の段階で日曜日のレースを直撃することが確実視されていた。それを受け、レーススタート時間を予定の15時ではなく、早めるのではないかという噂話がパドックに流れたが、世界各国のテレビ放映時間を変更することは非常に難しいという判断から、土曜日の時点でレースは予定通りのスタートが決まった。

 土曜日の天候は晴天となり、予選は周囲の予想通り、メルセデスのニコ・ロズベルグとルイス・ハミルトンによる一騎打ちとなった。Q1はハミルトンが制したが、Q2、Q3とロズベルグが完璧なラップを決め、Q3では1分32秒506をたたき出してポールポジションを獲得。ロズベルグ本人も「自分のレースキャリアで最高の部類に入る予選だった」と会心のドライビングであったことを語った。

 金曜日に行われたフリー走行では、S字コーナーなどは日本のスーパーフォーミュラの方が速いのでは? という印象を与えていたV6ターボエンジンのF1マシンだったが、予選を戦ったトップチームのマシンは、スーパーフォーミュラとは別次元の鋭い走りを見せていて、「今年のF1は遅い」という情報を信じていたファンも驚いていた。唯一の日本人ドライバーであるケータハムの小林可夢偉は前日のクラッシュによる影響もあったのか予選21番手だった。

雨天の決勝、タイヤ交換がレース展開を左右

 迎えた決勝レースの朝、台風18号が近づく中、鈴鹿サーキットは朝から小雨が降るコンディションだった。サポートレースとして行われていたスーパーFJやポルシェカップでは、この小雨がレースをより面白くさせる最高のスパイスとなっていたが、ドライバーズパレードの時間になると強い雨が降り始めた。その後 、グリッドにマシンが並んだときも再び雨が強くなり、全車フルウェットタイヤ、セーフティーカー先導によるスタートでレースは始まった。

 しかし、雨はレース続行が難しいほどと判断されて、2周で赤旗中断となる。その後、15時25分にセーフティカー先導で再開された。10周目にセーフティカーがピットインしてレースが本格的にスタートすると、7番手を走行していたマクラーレンのジェンソン・バトンは、このタイミングでピットイン。タイヤをインターミディエイトタイヤに変更するギャンブルに出た。1秒間の排水量が65リットルのウエットタイヤから、1秒間の排水量が25リットルのインターミディエイトタイヤへの変更が成功すれば、一足先にタイヤ交換に踏み切ったドライバーは一気にポジションアップが可能となる。そのバトンはギャンブルに成功した。

 ラップタイムの落ち込みがないことを見たライバルチームたちは、11周を終えたタイミングで続々とピットイン。独走するメルセデスの2台は、3位以下のチームがピットインしたことを確認してから、ロズベルグ、ハミルトンの順番でタイヤ交換を進めた。ここからはメルセデス同士の勝負となる。2位のハミルトンは、ロズベルグの真後ろにつけるも、オーバーテイクをうかがうチャンスがないまま、タイヤ交換後10周以上が過ぎた。

 その数周後、ハミルトンは再びタイヤ交換が必要となるタイミングでDRS(ドラッグ・リダクション・システム)が作動可能になった。DRSとは決められた区間において、リヤウイングのフラップを稼働させ空気抵抗を減らし、オーバーテイクをしやすくしたもの。作動可能区間前に前車との距離が1秒以内だと作動できるのだ。こうして、ロズベルグをオーバーテイクする鍵を手にしたハミルトンはどんどんロズベルグにプレッシャーをかけ始めた。そしてロズベルグがタイヤ交換をしてから15周が経った28周目、最終シケインからピッタリと後ろにつけていたハミルトンは、立ち上がりでタイヤをスリップさせて100%のトラクションをかけることに失敗したロズベルグのミスを見逃さなかった。

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