脱・実績!立ち返れ、秋山野球の「真髄」=鷹詞〜たかことば〜
歴史的「10・2」の記憶
劇的なサヨナラ勝ちで優勝を決めたソフトバンク。しかし、最終目標の日本一へはまだ乗り越えなくてはならない壁がある 【写真は共同】
福岡ソフトバンクホークスの3年ぶりのリーグ優勝は、あまりにも劇的すぎる決着だった。シーズン最終戦を勝てば優勝、負ければオリックスにマジック「1」の再点灯を許して限りなく厳しい状況に立たされる、まさしく天下分け目の大一番。延長戦にもつれ込み、どちらが勝ってもおかしくない大熱戦だったが、勝負を決めたのはソフトバンクの選手会長・松田宣浩のバットだった。左中間へのサヨナラヒット。松田は一塁ベースを回ったところで顔を両手で覆うとそのまま膝から崩れ落ちた。「急に力がふっと抜けました。涙も自然と出て……」と胴上げ直後、まだ目を赤く腫らしたまま語ってくれた。
内川聖一も大泣き。ベンチ裏に戻ると「今日のスタンドの雰囲気はすごかった。ホークスに来てから一番だったと思う」と感謝の言葉を口にした。確かにこの日のヤフオクドームのファンの声援はかつてないほどの大迫力だった。「特別な試合」を「特別なキモチ」で声を張り上げて大声援を送り続けた超満員のスタンドが、9月下旬から弱り切っていたチームに再び活力を与えてくれたのだ。
CSはソフトバンクの鬼門
そうだ。ソフトバンクにとってCS(プレーオフ時代も含む)は鬼門なのだ。日本シリーズ進出は2011年の1度のみで、逆に敗退は7度もある。04年、05年、10年はレギュラーシーズン1位ながら敗れ去る屈辱も味わっている。
短期決戦だからこそ必要な「見極め」
過去7度の敗退を経験している鬼門CS突破へ、「実績」だけにとらわれない選手の「見極め」が必要だ 【写真は共同】
9月25日の東北楽天戦(ヤフオクドーム)、シーズンを通して絶対的安定感を誇った五十嵐亮太が1イニング4押し出し四球というまさかの大乱調で逆転負けを喫した試合後の囲み取材でも「五十嵐も、回をまたいで失点した森(唯斗)も、これまでの実績から期待したのだが……」とうなるように言葉を絞り出した。
また、開幕時にも故障を抱えていた投手を先発ローテに入れたり、2軍で若手が台頭しても「まだ実績がないから」と昇格まで時間をかけたり、歯車がどこかかみ合っていない印象を何度か受けたことがあった。
確かにプロ野球は「1年結果を残せば、次からもできる」という世界ではない。安定して長く結果を残せる選手、つまり「実績」のある選手ほど優秀という指標は間違いではない。だが、日本一に輝いた11年をはじめ、以前の秋山監督は「調子や状態の良い選手を率先して起用する」と常に話していた。それを最も象徴するシーンが11年の中日との日本シリーズ第7戦。当時の不動の抑えは馬原孝浩(現オリックス)だったが、シリーズの第1戦、第2戦と続けて延長戦で決勝打を打たれて敗戦投手に。すると秋山監督が第7戦で胴上げ投手として起用したのは攝津正だった。賛否両論はあったが、結果として攝津が最後の打者を空振り三振に仕留め、ソフトバンクは日本一となったのだ。
実績だけにとらわれない選手の見極め。それも秋山野球の真髄の一つである。短期決戦だからこそ、その原点に立ち返るのが、2度目さらに3度目のビールかけを実現するためのポイントになるのではなかろうか。
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