小さな体に秘められたエースの資質 宮原知子、いよいよ開花のシーズンへ

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大舞台に動じない強心臓

物静かな宮原(右から2番目)だが、試合では強心臓っぷりを発揮する 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 村上に比べると、宮原は強心臓ぶりを発揮している。14歳で臨んだ2012年の全日本選手権では驚きの3位表彰台。シニア選手として参加した昨シーズンのNHK杯でも初出場ながら、はつらつとした演技を披露した。さらに圧巻だったのはソチ五輪の最終選考会となった昨年の全日本選手権だ。ショートプログラム(SP)、FS共にノーミスの完璧な滑りで、会場を大いに沸かせた。惜しくも4位に終わり、五輪の出場権は獲得できなかったが、大舞台に動じない強さを印象付けている。

 強じんなメンタルの支えとなっているのは、練習によって培われた自信だろう。宮原は自らの性格を「すぐにはあきらめず、何事も最後までやろうとする人間」と分析している。その努力家ぶりは、宮原を指導する濱田美栄コーチや田村岳斗コーチも称賛しており、放っておくといつまでも練習を続けてしまうのだという。本人は「練習でできていないと、本番でもできないタイプ」と思っているようで、だからこそ絶対の自信を得られるまで練習を積み重ねる。しかし、もしそれでできなくても「『明日にはできる』と気持ちを切り替えて、あんまり引きずらない」という。

 表向きは、笑顔がトレードマークで天真爛漫(らんまん)な村上と、シャイで自分の感情をあまり出さない宮原では、前者の方がプラス思考であるかのような印象を受ける。だが、それはまったくの逆で、後者の方が実はあまり思い詰めないタイプなのだ。

 エースにかかる期待は非常に大きい。ましてや国民的ヒロインで、世界でもトップに位置する実力を持つ浅田の後を継ぐというのは、すさまじいプレッシャーがのしかかる。そうした状況下で結果を残すためには、簡単には折れない精神力が必要となる。その意味で宮原にはエースの資質が備わっていると言えるだろう。

意識も変化「自分が目立っていい頃」

 もちろん宮原にも乗り越えなければいけない壁がある。とりわけ、ベストの演技をしながらまたも敗れた15歳のエレーナ・ラジオノワ(ロシア)とは同年代であるだけに、なるべく早く追いつきたい。ラジオノワは13、14年とジュニア世界選手権を連覇。昨年のNHK杯では宮原と同じくシニア初参戦ながら、浅田に次ぐ2位に入っている。年齢制限により、ソチ五輪には出場できなかったが、今後のライバルとなっていく選手だ。宮原はこれらの大会すべてでラジオノワの後塵を拝している。

 そのラジオノワは今大会でも136.46点を記録。女子全体で1位に輝いており、欧州の逆転優勝に大きく貢献した。物おじしない明るい性格で、キス&クライで行われた優勝インタビューでも、なかなか話を終わりにせず、観客の笑いを誘っていた。試合後には「4年間でどうなるか分からないし、正直まだそんなに考えてないけど」と前置きしながらも「すべての選手と同じように私も五輪に出たい」と、次の開催地である平昌(ピョンチャン)への思いを明かした。ロシアには他にも五輪金メダリストのアデリナ・ソトニコワやユリア・リプニツカヤ、今大会にも出場したアンナ・ポゴリラヤといった、宮原とさほど歳も変わらない有力選手がそろっており、日本の前に立ちはだかってくるのは間違いない。彼女たちに伍していくことが今後は宮原にも求められてくる。

 年齢のこともあり、宮原は「次世代エース」と評されることが多い。あくまで“村上の次”という意味合いだ。しかし、チームが追い込まれた場面で見せた今大会の演技は、まさにエースの称号にふさわしいものだった。この夏は課題とされてきたジャンプの回転不足を修正するトレーニングを重点的に行い、プログラム全体にスピードもついてきた。「自分が目立ってもいい頃」と、先頭に立つ意識も見られている。才能が本格的に開花する時期がいよいよ近づいてきたのかもしれない。

(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)

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